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美術館訪問記-97 アイルランド国立美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:アイルランド国立美術館外観

添付2:ポンぺオ・バトーニ作
「ジョセフ・リーソンの肖像」

添付3:ミケーレ・トシーニ作
「ヴィーナスとキューピッド」

添付4:パオロ・ウッチェッロ作
「聖母子」

添付5:カラヴァッジョ作
「キリストの捕縛」 

添付6:ハブリエル・メツー作
「手紙を読む婦人」

添付7:フェルメール作
「手紙を書く婦人と召使」

フェルメールと言えば、彼の絵見たさに出かけた美術館がありました。

アイルランドの首都ダブリンにある「アイルランド国立美術館」

ダブリン市内中心部のメリオン・スクエア公園に隣接した広場を、 国立図書館、国立博物館、政府庁舎と並んで取り囲んでいます。

建物は1階、2階、中3階、3階という4層構造。

コレクションの中心となる外国人画家の作品は3階に集中しています。

入ると直ぐにポンペオ・バトーニの「ジョセフ・リーソンの肖像」がありました。

バトーニは18世紀半ばのイタリアでは、最も名の知れた肖像画家で、 その頃盛んだったグランド・ツアーでローマに来る貴族や上流男女の肖像画を 多数残しています。

ジョセフ・リーソンは初代ミルタウン伯爵で、精力的に絵画を収集し、 彼のコレクションが当美術館の礎となっています。

その反対側の壁にミケーレ・ディ・リドルフォ・デル・ギルランダイオの 「ヴィーナスとキューピッド」の絵がありました。

この絵は、画面左手を占める黒い箱の上に置かれた弓に掛けられた2つの仮面と、 その箱の中に置かれた彫刻が特異で、中央遠景の山腹の2つの城といい、 全てが謎めいています。

色彩も、ヴィーナスとキューピッドの瞼、鼻、頬、口のピンク、 ヴィーナスの髪を留めるバンドの赤、キューピッドの羽根の濃青、赤、茶、白色、 箱に掛けられた緑の布と、鮮やかで、見る者の興味を惹き立てます。

今は喪失している、ミケランジェロの原作を模写したものですが、 当時の画家達にとっても、この絵は魅力的だったようで、 少なくとも17点の模写があるといいます。

ミケーレは本名ミケーレ・トシーニ。

ドメニコ・ギルランダイオの実子リドルフォの一番弟子となり、ギルランダイオの 名を継ぐ事を許された画家で、ドメニコと血の繋がりはありません。

続いてウッチェッロの「聖母子」がありましたが、ウッチェッロらしい、 とぼけた味のする、丸顔の福々しい聖母子で、髪飾りと頭上の光輪も まるで馬車の木製の車輪のような、ユニークなもの。

イタリアのコーナーには他にも、フラ・アンジェリコ、ペルジーノ、マンテーニャ、 フリッピーノ・リッピ、ティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼ、 ティエポロ、カナレット等堂々たるコレクション。

その中で、最大の呼び物はカラヴァッジョの「キリストの捕縛」です。

この作品はカラヴァッジョのパトロンだったマッティ家の注文で描かれた事は、 記録が残っているのだそうですが、その後400年近くもの間 どこにあるのか分からなかった。

1990年の8月にアイルランド国立美術館の修復士をしていた イタリア人のベネデッティが、美術館の近くのイエズス会の神父さんの依頼で 教会で埃を被っていた1枚の絵を鑑定。

彼はカラヴァッジョの真作と直感したのだそうですが、何せ偽物も多い 著名な画家なので、その事はおくびにも出さず、預かって持ち帰る。

アイルランド国立美術館の総力を挙げて慎重に調べ、使われているキャンバスは マッティ家が別にカラヴァッジョに発注した「洗礼者ヨハネ」と同一であること、 X線調査などでカラヴァッジョの真作と同じ証拠を発見しました。

同じ頃、イタリアの大学の研究者だったフランチェスカさんがマッティ家の 古文書を調査していて、カラヴァッジョへの支払いの文書を発見、 1802年にこの絵をスコットランドの貴族に売却した事を突き止めます。

しかしその時には書記のエラーで別人の作という事になってしまっていた。 1921年この絵がオークションにかけられたところまでは判ったのですが、 その先はプッツリ情報が途絶えていました。

実はこの絵が画廊に出ていたのを、旅行中のアイルランドの婦人が 購入して持ち帰り、その後近所のイエズス会に寄贈したと判明。

2人の調査で文献的にも科学的にもカラヴァッジョの真作という事が証明され、 慎重な修復作業の後、1993年11月、劇的な発表会が遂行されたのです。

今この絵はイエズス会教会から国立美術館への永久貸与となっています。

目的のフェルメールはレンブラントとその弟子達や、ステーン、ホッベマ等と 共にオランダ人画家達のコーナーにありました。

フェルメールの3年先達のハブリエル・メツーの「手紙を読む婦人」が 近くにありました。フェルメールの作風によく似ています。

有名なフェルメールの「手紙を書く婦人と召使」は、 経済的にはオランダの冬の時代にかかる1670年過ぎに描かれたためか、 近くで見ると、衣装、緞子、カーテン、床、壁の絵、 何れも色塗りが単色的、平面的で、かつての緻密な写実性と、 それに伴うリアリティ、静謐な詩情からは遠ざかっているように感じました。

国立美術館には充実したスペイン絵画やフランス絵画、それに地元アイルランドの 画家や、イギリスの画家達の作品も勿論あり、肝心のフェルメールは得心のいく ものではなかったのですが、それ以外の作品で十二分に補われたのでした。

(*ドンゲン作「花飾りのついた帽子を被ったステラ」は著作権上の理由により割愛しました。管理人)

美術館訪問記 No.98 はこちら

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