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美術館訪問記-81 ミラノ市立近代美術館

(* 長野一隆氏メールより。画像クリックで拡大表示されます。)

添付1:ミラノ市立近代美術館正面

添付2:セガンティーニ作
「二つの母性」

添付3:セガンティーニ作
「生の天使」

添付4:ミラノ市立近代美術館1階の1室

添付5:アイエツ作
「マグダラのマリア」

添付6:アイエツ作
「接吻」
ミラノ、ブレラ美術館蔵

添付7:ゴッホ作
「ブルターニュの人々」

セガンティーニと言えば、イタリア、ミラノにある 「ミラノ市立近代美術館」を外す訳にはいきません。

実は私がセガンティーニを初めて知ったのは、 この美術館で13作もの彼の作品に接した時でした。 サンモリッツのセガンティーニ美術館以外では、 これだけ彼の作品を揃えた所は世界にないでしょう。

セガンティーニをスイス人と勘違いされている方もおられますが、 彼はイタリア生まれのイタリア人。彼が生まれ、亡くなった地に近い ここミラノに彼の作品が多く保存されている所以です。

ここにある象徴主義の先駆けとなる彼の「二つの母性」は、 人間と牛という当時では比較の対象とならない二つを並べて 物議をかもしたといいますが、セガンティーニは自然風景とは別に、 母性を象徴する絵も多く描きました。

これは母を7歳で亡くし、翌年には父もいなくなるという孤独な幼年時代が 色濃く反映されているようです。

自然風景と母性の2つのテーマを融合した、山岳や湖を背景に 中央に大きく描かれた樹上で抱き合う母子を描いた「生の天使」などもあります。

ここはイタリアの美術館には珍しく入場料なし。 にもかかわらず、訪れる人は少ない。日本のガイドブックに ほとんど紹介されてこなかったこともあってか、至る所で見かける日本人も 過去5回の訪館では一度も見かけませんでした。 しかしこの美術館のコレクションは素晴しく、知られざる名美術館と言えます。

建物も18世紀末に建設されたネオ・クラシックの貴族の館を そのまま使用した豪華なもの。外壁にはギリシャ神話のヴィーナスを モチーフとした「愛」がテーマの彫刻がずらりと並び、 なんともロマンティックな外観。

裏には当時のミラノで初めてと言われるイギリス式庭園が広がっています。 1階の室内には王宮の様な華麗な装飾が施され、 イタリア人による絵画、彫刻、天井画等もあります。

ナポレオンがミラノに侵攻した際ここが気に入り、彼の養子、 ウジェーヌ・ド・ボアルとその家族をナポレオンの失脚するまで 住まわせたというのも理解できます。

1,2階はイタリア人芸術家による19世紀の作品が並んでいます。 2010年12月にミラノに20世紀美術館が開館して以来、ここは19世紀の美術に 特化する事になり、以前あった20世紀や18世紀以前の作品は他に移されました。 マリーノ・マリーニの絵画・版画・彫刻作品を集めたコーナーも 20世紀美術館に移されました。

2階にはフォンタネージやファットーリ、スパディーニ等19世紀イタリアを 代表する画家達が並びます。アイエツの作品が11点もあるのも珍しい。 実は、初めてアイエツの魅力を認識したのもこの美術館でした。

フランチェスコ・アイエツは19世紀ミラノを代表するロマン主義の画家で、 肖像画の名手として名を馳せ、歴史画や抒情性溢れる感傷的表現を得意としました。 1850年にはミラノのブレラ美術学校の校長に就任。91歳の長寿を全うしています。 ブレラ美術館にある「接吻」が代表作と見做されています。

3階には一流外国人画家の作品が勢揃いしています。 コロー、ミレー、アンソール、ロートレック、マネ、モリゾ、シスレー、 ヴュイヤール等。

意外に思われるかもしれませんが、イタリアでは これらの画家の作品が常設展で見られるのはここだけなのです。

他にもセザンヌやクールベ、ブーダン、ルノワール、ゴーギャン、ゴッホ、 ボナール、マティス、デュフィ等多士済々。

注 :

象徴主義:19世紀後半、印象主義と双璧をなす芸術概念で、人間の内面や夢、 神秘性などを象徴的に表現しようとするもので、ギュスターヴ・モロー、 ルドン、ゴーギャン、セガンティーニ、クリムト、ムンクなどが代表的な画家

ロマン主義:18世紀末から19世紀にかけての、反合理主義的、主情主義的、 神秘主義的傾向の総称で、古典主義の対置とされる。叙情性や抽象性を 感じさせる描写が特徴的。ゴヤ、ドラクロア、フリードリッヒ、アイエツ、 ターナー、フュースリーなどが代表的な画家

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