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美術館訪問記-80 セガンティーニ美術館

(* 長野一隆氏メールより。画像クリックで拡大表示されます。)

添付1:セガンティーニ美術館

添付2:セガンティーニ作
「生」

添付3:セガンティーニ作
「自然」

添付4:セガンティーニ作
「死」

添付5:三部作が展示された美術館の展示室

添付6:美術館前から見たサンモリッツの風景

暑気払いに涼やかなスイスの高原にある美術館を採り上げましょう。

スイスのサンモリッツに「セガンティーニ美術館」があります。 イタリアとの国境に近い町、サンモリッツは標高1800メートルに位置する スイスを代表するリゾート・タウンです。

澄み切った空気はシャンパン気候と呼ばれ、光の粒が、 まるで注がれたシャンパンの気泡のように降り注いでいるのです。 このセガンティーニが愛して止まなかった風景の中に美術館はあります。

彼の代表3部作「生」「自然」「死」の完成に取り組みながら、 41歳の若さで急逝した、シャーフベルクの山小屋の方を向いて建つ 石壁の外壁のユニークな建物。

ドーム屋根の下の円筒形の壁には、円形の小窓が周囲を取り巻いていています。 一見天文台のようにも、教会のようにも見えます。

この360度自然光が取り込める2階に、「生」と「死」は190 x 332cm、 「自然」は235 x 403cmという横長の大作が収められています。

独自の精密な色彩分割で、高原の強烈な陽射しと澄んだ空気を 描出し尽くしているかのようです。

殆どの線がチューブからそのまま捻り出して置いたように 1本1本盛り上がっています。細い線なのですが。 この線の盛り上がりは実物でないと実感できません。

「生」は高原の午後の人々と牧畜の営みを、 「自然」は沈み行く夕陽に祈るように頭を垂れ帰途に着く人と牛を、 「死」は凍てつく寒さの冬の朝陽に照らされた高山と、 まだ薄暗闇の中に死者を弔う人々を描いています。

現在の3幅祭壇画とも言えそうな、 荘厳で厳粛な静けさと神秘、諦観、祈り、希望が漂う作品です。

セガンティーニはこれらの3作で彼の自らへの問、 「この世に存在するものが循環し無限に続くことの意義を、 私は表現できるであろうか。私が描く自然風景に生き生きとした 生命感が与える光を、私は描出できるであろうか。」に見事に答えて見せたのです。

1階には20点の油彩画とデッサンがあります。 3部作の下図の鉛筆描きが展示されていましたが、 それによるとこの3部作は完成図の全体の6割くらいで、 もし全部が出来上がっていれば、壮大なものになっていたに違いありません。

2階の上部の窓から上は全て白色で、まさに礼拝堂のようですが、 この3部作がセガンティーニの祭壇画であれば、納得がいきます。

ここで売っていたセガンティーニの100回忌記念本は縦165mm、横284mmという 細長いもの。横長の作品の多いセガンティーニ作品を収めるためとはいえ、 私の集めた世界中の美術本の中でもこれだけという特異な形をしています。

独・伊・英・日、4ヶ国語で説明があるのも珍しい。 いかに日本人がセガンティーニ好きかという証明でしょうか。

美術館の出口から見る対面の山々や湖も美しく忘れ難いものでした。 スイスの湖や川の水の色は深緑で鮮烈な色をしています。

美術館訪問記 No.81 はこちら

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