次の町はエッセン。デュッセルドルフの北東にある工業都市で人口58万人弱。 ドイツで初めて街の通りの一部を車の乗り入れ禁止にして、 歩行者天国を造った都市としても知られています。
ここにあるのがドイツを代表する近現代美術館「フォルクヴァンク美術館」。
なにせゴーギャンとゴッホが4点ずつあり、他にもコローやドラクロワ、ドーミエ、 クールベ、マネ、セザンヌ、モネ、ルノワール、シニャック、マティス、 シャガール、ミロ、マグリット、ダリなど近代絵画の名品が勢揃いしているのです。
「フォルクヴァンク」とは、ゲルマン神話エッダに出てくる豊穣と芸術の女神 フレイヤが住んでいる宮殿のことです。工業地帯に暮らす人々に物だけでなく 心や知的豊かさも持ってほしいと願い、創設者のオストハウスが命名しました。
カール・エルンスト・オストハウス(1874-1921)は裕福な家の生まれで、 芸術愛好家であり、芸術家たちの重要なパトロンであり収集家でもありました。
1902年オストハウスは自宅のあったハーゲン市にドイツ初の近現代美術館を設立。 彼の死後このコレクションは近隣都市エッセンに引き継がれ、1922年開館。
2008年に2度目の訪館をした時は大々的な改修中で、 所蔵品の一部が近くの大豪邸ヴィラ・ヒューゲルで公開されていましたが、 2022年に訪れた時は近代的な施設、設備となっていました。
添付美術館内部写真にも写っているゴッホの「アルマン・ルーランの肖像」は 第699回で同じ題名の別作を紹介しましたが、人付き合いのよくなかったゴッホが アルル滞在中に親しい友人となったジョゼフ・ルーランの長男を描いたものです。
モデル料にも事欠くゴッホはルーランとの家族ぐるみの交際を多として ルーランの家族5人を合計23作もの作品に仕上げているのです。
ココシュカ作の「アルマとココシュカ」がありました。 1912/13年作。まだ関係良好のようです。
アルマは別名「天才たちの恋人」。彼女は芸術家のミューズ、つまり幾多の 芸術家を魅了し、霊感をかき立てる女神のような存在だったのです。
アルマは作曲家グスタフ・マーラー、近代建築の父グローピウス、ドイツ表現主義 の代表的作家ウェルフェルという3人の各分野を代表する芸術家と結婚しています。
画家がいない? そう、アルマは最初の夫マーラーの死後、ウィーンの問題児だったココシュカに 肖像画を依頼し、ココシュカは一目でアルマの魅力に取りつかれ求婚します。 アルマはそれに応えるのですが、結婚はしなかった。
やがてアルマにつれなくされ始めたココシュカは絶望のあまり、 勃発した第一次大戦に志願兵として参加。頭部に重傷を負って帰国した時には アルマは第二の夫、グローピウスと結婚していました。
この美術館には悲しい過去がありました。これまで何度か書きましたように ナチス政権下で退廃芸術排斥運動があった時に、 美術館全体がその対象となり1400点以上の作品が没収されてしまったのです。
第二次世界大戦終了後にそれらの大部分は回収、再購入されて、 1970年代にはナチス台頭以前よりも所蔵品数は増加しています。
館内には1937年に開催された「退廃芸術展」の写真が展示されていました。 写真は白黒ですが、展示作品中、当館所有だったものに彩色が施されています。
その写真中のノルデ作「エジプトの聖マリア」は戻って来ていました。
エジプトの聖マリアは5-6世紀に実在したと言われる聖人で、特に正教会では、 生神女マリヤに次ぐ第二の聖人とも呼ばれ、極めて篤く崇敬されています。
彼女についての伝承は長くなるので省きますが、この絵は彼女が死亡した後 死体を見つけた修道士ゾシマのところに大きなライオンが現れた場面です。
ライオンは聖マリアのために墓を堀り、ゾシマは聖マリアを手厚く埋葬し、 ライオンは荒野の奥へ、ゾシマは修道院へと神を讃美しながら戻って行くのです。
ノルデが好んで描いた、彼が丹精を込めた庭の花々の絵もありました。
ノルデの個展を観て感激し、1905年、ドレスデンにて学生仲間のヘッケル、 シュミット=ロットルフらと結成した画家グループ、ブリュッケ(ドイツ語で橋)に 入るように懇請したキルヒナーの「カラー・ダンス」があります。
この作品を描いた5年後、32点もの自作が「退廃芸術展」で晒しものになった キルヒナーは精神に異常を来たし、翌年ピストル自殺してしまうのでした。
キルヒナーの仲間だったヘッケルの「プット」もあります。 プットはルネサンス美術で描かれた翼の生えた裸の幼児のことです。
同じく退廃芸術の烙印を押されたレームブルックの彫刻もありました。 深い精神性を湛えた彼の作品がなぜ退廃芸術と判断されたのかは謎ですが。
(添付4:ココシュカ作「アルマとココシュカ」および添付9:ヘッケル作「プット」は著作権上の理由により割愛しました。
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