次はダルムシュタット。フランクフルトの南30㎞足らずの所にあり、 人口約16万人の1918年まではヘッセン大公国の首都だった歴史ある街です。
この市の中心部やや北側にあるのが「ヘッセン州立博物館」。
創立は1820年でドイツでは最も早く設立された公的博物館の一つです。 第二次世界大戦で近隣の建物が全壊した中でこの建物は僅かな損傷ですみました。
重厚な雰囲気のファサードの建物で、入り口の左右にはライオンの銅像が 迎えてくれます。反対側には緑豊かなヘルンガルテン公園が広がっています。
博物館ですから、考古学的展示品や自然史的展示品も数多くあるようですが、 絵画にしか主たる関心がない私は別棟になっている絵画館へ一直線。
ここの絵画館は博物館とは地下で繋がった別棟になっていましたが、 問題は絵画館へ向かう扉は何の表示もなく閉ざされており、 しかも扉左手前下にあるスウィッチを押さなければその扉は開かない。
ドイツ語の読めない外国人には到達不可能とみて受付の女性が誰かに 頼んでくれたようで、途中で案内の女性が現れ絵画館まで連れて行ってくれました。
この博物館の見所はピーテル・ブリューゲル父の「絞首台の上のかささぎ」。
絵画館入口すぐの場所にあり、 46 x 51cmと思っていたよりもかなり小さいものでしたが、 これがブリューゲル父の未見の最後の絵だと思うと感慨深いものがありました。
この絵は1568年作で、翌年亡くなる彼にとっては最晩年の、遺作と言っても よいでしょう。彼はこの絵に様々な寓意を込めています。
絞首台の傍らで楽しげに踊る農民は、身近に存在する死を忘れて楽しむ「愚かさ」、 左下隅で用を足す男性は、死を恐れぬ「傲慢さ」、 カササギは「陰口」を暗示し、密告者の象徴とされており、 絞首台の上と岩の上に一羽ずつカササギがとまっています。
魔女裁判や異端審問が最も厳しかった時代の16世紀は、オランダを統治する スペイン・ハプスブルク家への抵抗運動も盛んな時代でした。
密告が推奨されていたこの時代、楽しく踊る農民たちも何か密告されるような 秘密を抱えているように暗示されていると捉えられます。
またこの作品は絞首台がねじれて引き伸ばされているように見えます。
一方、キャンバス右側の空間は、遠近法を用いて水峡が描かれており、 茶色の大地(濃色)、緑色の水峡(中間色)、淡青と灰色の空(淡色)といった 色彩により遠近感を表現する、見事な空気遠近法を展開しています。
ケルン派を代表するシュテファン・ロッホナーの「キリストの神殿奉献」が すぐ傍にあり、これが美麗で好ましいものでした。
ケルン派とは14世紀後半から 15世紀前半にかけて ドイツのケルンを中心に制作された絵画の総称です。 繊細優美な様式を特徴とし,画面には夢幻的雰囲気が漂っています。
キリストの神殿奉献は四福音書のうち「ルカによる福音書」にのみ記述があり、 マリアはモーゼの律法にしたがって、イエスをエルサレムの神殿に捧げに行きます。
そこで救世主の出現を聖告されていた老シメオンが神殿で幼子イエスを抱き、 彼が救世主であることを宣言するとともに、 後に振りかかる救世主イエスへの受難を予言するのです。
この主題は聖母の7つの悲しみの一つでもあり、絵画に多く採り上げられています。
印象に残ったのは他に、フォイエルバッハの「イピゲネイア」、 ベックリンの「自画像」を含む11作、ストゥックの3作、 ウォーターハウスの「美しい女性のおかげで」。
エゴン・シーレの「秋の木」はほとんど空白の画面に 紅葉しかかった木の枝を描いただけのものですが、 それだけで一目でシーレと判る独創性は素晴らしい。
カール・ホーファーの「見つめる人達」は東洋的な感覚の夢幻的な作品で珍しい。
(添付9:カール・ホーファー作「見つめる人達」は著作権上の理由により割愛しました。
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