ベルギーABC順最後の町はトゥルネー。
2000年前にローマ帝国の兵営都市トゥルナカムとして建設された、ベルギー最古の町であり、フランス国境に接し、フランク王国初代のクローヴィス1世が生まれた地であるため、フランス揺籃の地とも言われます。
この町にあるのが「トゥルネー美術館」。
ベルギーを代表する美術収集家アンリ・ヴァン・カットセムが、死を前にした1904年自らのコレクションをトゥルネー市に寄贈したものが中核となっています。
カットセムの寄贈条件として、彼の友人だった、ベルギーのアール・ヌーヴォーの第一人者ヴィクトール・オルタの設計で美術館を建設する事が指定されていました。
オルタは設計を始めますが、第一次世界大戦で遅延したため、当初のアール・ヌーヴォー様式の設計を取り止め、アール・デコ様式の設計に切り替え、美術館は1928年に開館。
自然光の差し込む館内には初期フランドル絵画から現代画家まで700点余りのベルギー、フランス人画家達の作品が展示されています。
オールド・マスターはトゥルネー生まれのロヒール・ファン・デル・ウェイデンの「聖母子」やヤン・ホッサールトの「聖ドナティエン」、ピーテル・ブリューゲル子の「冬景色」などがあります。
聖ドナティエンは389年、フランスのランスの司教だった聖人で、子供の時川で溺れかかっていると、神が5本の蠟燭の付いた車輪を投げ入れてくれ、それにつかまったドナティエンはすぐ助け上げられたという伝説があります。
第660回のグルーニング美術館で採り上げたヤン・ファン・エイクの「ファン・デル・パーレの聖母子」の左端にも聖ドナティエンがいました。どちらの絵でも聖ドナティエンは属性を示す5本の蠟燭付き車輪を持っています。
近代絵画は潤沢に展示されていますが、印象派の父と言われるマネの2作品と真の印象派と呼ばれ、生涯印象派を貫いたモネ、ベルギー印象派で光輝主義と言われたエミール・クラウスの作品をを添付しましょう。
マネの「アルジャントゥイユ」はパリの北西、舟遊び場として有名なセーヌ河沿いのアルジャントゥイユに集う男女の姿です。
マネは、女性を縦縞、男性を横縞の服で描き、二人の服装を意図的に引き立て合い、質感の変化により絵に深みを与えると同時に、二人の間の関係を暗示しています。
この絵は第1回印象派展が開かれた1874年の作。マネは印象派展には一度も参加していませんが、本作は、それまでのアトリエでの制作から自然の中での開放的な絵画へと、マネの作風を大きく変える礎となった作品です。
「ラテュイユ親父の店」はレストランのテラス席で食事を楽しむ男女を描いた作品。シャンパングラスを片手に女性を口説いている男にカフェを注ぐタイミングを計っている、右端のウエイターの姿がいかにも現代的で微笑ましい。
モネの「カップ・マルタン」は南仏モナコから東へ5㎞程にある岬を描いたもので岩に砕ける波や風に煽られる木々、清明な海と霞む空を印象派らしいタッチで表現しており、1884年作とは思えぬ現代的な感覚を示しています。
エミール・クラウスが妻の日常の何気ないポーズを捉えた作品はいかにも光輝主義らしい光に満ちた心地よいものでした。
満足して美術館を出ると、聖母子を描くロヒール・ファン・デル・ウェイデンの彫像が街角の広場にカフェの椅子に囲まれて鎮座していました。