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美術館訪問記 - 670 ゲント美術館、Gent

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ゲント美術館正面

添付2:ヒエロニムス・ボス作
「十字架を背負うキリスト」

添付3:ヒエロニムス・ボス作
「祈りを捧げる聖ヒエロニムス」

添付4:ヤン・ホッサールト作
「冷たい石の上のキリスト」

添付5:ルーベンス作
「聖痕を受ける聖フランチェスコ」

添付6:ギュスターフ・デ・シュメト作
「良き家庭」

添付7:ギュスターフ・デ・シュメト作
「画家とその妻」
写真:Creative Commons

添付9:エミール・クラウス作
「ある晴れた日」

添付10:ゲント美術館内部

次の町はゲント。現在の日本での表記はヘントですが、旧来のゲントで行きます。人口26万5千人というブリュッセル、アントワープに次ぐベルギー第3の都市です。

ここにあるのが「ゲント美術館」。1798年設立のベルギーで最も古い歴史をもつ美術館です。美術館正面には2023年には開館225年目を迎えるという”225”という数字が掲げられていました。

14世紀から20世紀前半のフランドル美術を中心にベルギー出身画家の作品を多く所蔵しています。特に、ヒエロニムス・ボスの2点の傑作「十字架を背負うキリスト」「祈りを捧げる聖ヒエロニムス」を初めとする初期フランドル絵画の名作と19世紀以降のベルギー近代絵画の佳品が見どころ。

ヒエロニムス・ボス(1450-1516)ほど、奔放な想像力を駆使して、全く前例のない怪奇と幻想に満ちた世界を構築した画家はいないでしょう。

彼はオランダのスヘルトーヘンボスの生まれで、本名ヒエロニムス・ファン・アーケン。生誕地の名にちなんでボスと称しました。

祖父、父と3代に渡る画家で、堅実に画業を受け継ぎ発展させ、裕福な家系の妻を娶り、おかげで街の富裕層が集う聖母マリア兄弟会のメンバーとなり、名士として活動していたようです。

彼の描く主題は宗教関係に限られますが、当時から彼の特異な画風は、国際的に好まれたようで、諸外国の王侯貴族からの注文も多かったとみられます。

しかし、宗教関係に限られたために、ボスの死後吹き荒れた宗教改革による偶像破壊運動で被害に遭い、1629年、カトリック教区だったスヘルトーヘンボスは、オラニエ公フレデリック・ヘンドリックの軍門に降り、街は大破。多数あったとみられるボスの作品は消失してしまったのです。

ボス最晩年の作品「十字架を担うキリスト」はエルサレムで捕らわれたキリストが人々から愚弄され、様々な辱めや暴力を受ける一場面で、善であるキリストの姿と、悪であるユダヤ人の対比を、容貌によって巧みに描き分けています。

十字架を担ってゴルゴタの丘に向かうキリストは静かで孤独な存在です。この地獄のような状況の中、ひっそりと目を閉じ、この場のすべてのものから遊離しているように見えます。

それに引き替え、群衆は異様な熱気に突き動かされ、まるで獣のようです。ほとんど狂気と化した人々は、抑えがたく横溢した活力によって、人間として最も醜い本性を露わにしてしまっているのでしょう。

そんな中、一人、聖ヴェロニカは少し離れて、やはり目を閉じています。手には、キリストの額の汗をぬぐった布が捧げ持たれ、そこには救い主の顔がはっきりと写し出されています。

フランドルの雄、ヤン・ホッサールト(通称マビューズ)やルーベンスもあります。

近代のベルギー人画家達からはまだ説明していなかったギュスターフ・デ・シュメトを採り上げましょう。

彼は1877年ゲントの画家の家に生まれ、弟のレオン・デ・シュメト(1881-1966)と共にゲント美術学校で学んだ後、二人で前回触れたゲント近郊の芸術家村シント=マルテンス=ラーテムに移り住み、印象派の画家として暮らします。

第一次世界大戦中はオランダに避難し、アムステルダムに滞在していたフランスの表現主義の画家アンリ・ル・フォーコニエらに影響され表現主義に転向。

1922年にベルギーに帰国し、コンスタン・ペルメーク(第146回参照)と並ぶベルギー表現主義の二大巨頭として活躍。1943年死去。

弟のレオンは第一次世界大戦中はイギリスに移住。幾多の著名人と親交を持ち、彼らの肖像画を描き、印象派として個展も何度と開催して大成功します。

1926年帰国後は兄ギュスターフやペルメークの影響もあって表現主義的な絵も描きましたが、ラーテム派最後の生き字引として内外からの画家や客の訪問も絶えず、レオンも快く迎え入れて、活気ある人生を送りました。

他にもエミール・クラウスやグスターフ・ファン・ド・ウーステイン、アントワーヌ・ヴィールツ、ムーニエ、アンソール、デルヴォー、マグリットなどこれまで紹介して来たベルギー人近代画家たちが勢揃いしています。



(添付8:レオン・デ・シュメト作「ルイーズ」は著作権上の理由により割愛しました。
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