続いてベルギーの首都ブリュッセル。人口122万人余りの大都会です。
ベルギーはこの都市を境に北は公用語がオランダ語のフランドル地方、南は公用語がフランス語のワロン地方に分かれます。首都では両方が公用語。尤もフランス語話者が9割近くを占めますが。
首都だけに沢山の見どころがありますが、その筆頭は「ベルギー王立美術館」。
古典美術館、近代美術館、世紀末美術館、マグリット美術館、ヴィールツ美術館、ムーニエ美術館の6美術館で構成されています。
最後の2美術館は離れた場所にありますが、先頭の4美術館は、町の中心、ロワイヤル広場に面して、4つのビルが1つの道路を挟んで地下で繋がっている複雑な3次元構造になっています。
4美術館とも入口は一つで、内部で分けられています。
1801年ナポレオンによって基礎が設立され1803年開館した歴史ある美術館らしい風格ある正面入り口から入ると2階まで吹き抜けの広いホールに出ます。
右手中ほどを入り、地下道を通ると世紀末美術館と隣のマグリット美術館へ。中央突き当りを入って2階へ上がると古典美術館になっています。
最初は「ベルギー王立美術館:古典美術館」。
ここには15世紀から18世紀までのフランドル絵画の巨匠たちの作品が館内を埋め尽くしています。名画揃いの中から年代順に選んでみましょう。
まず最初はこれまで何度も名前を出しながらまだ説明していなかったロヒール・ファン・デル・ウェイデン(1400-1464)の「ピエタ」。
ウェイデンはベルギー、トゥルネーの出身でロベルト・カンピンの下で修業し、1436年には移住したブリュッセルで市の公認画家となっています。
ブリュッセルで工房を開き大変成功したということ以外、この時代の多くの画家同様詳しい記録は残っていません。
しかしフランドルの先達著名画家ヤン・ファン・エイクが宮廷という閉じた環境で働いたため、開かれた工房を持たず、後継者を育てなかったのに対して、社会の一市民として働いたウェイデンの工房にはディルク・バウツやメムリンクがいたこともあり、後の画家達にはヤン以上の影響力を持ったのです。
彼の芸術の特徴は、登場人物の感情表現を抑制したエイクとは対照的に、人物像のモニュメンタルな構成と強い感情表出によって人間の内面のドラマを表現している点にあるでしょう。
この「ピエタ」もそうですが、キリストの受難に立ち会う人々の悲しみを、透明感のある清澄な色彩表現と哀愁感漂う劇的な感情表現で描き出しています。
続いてヤン・ホッサールト(マビューズ)の「ヴィーナスとキューピッド」。小品ながら彼らしい彫像のような登場人物が、彼の作品につきもののがっちりとした大理石の建築物の間に描かれています。
ブリューゲル一族を集めた一部屋からは一族の祖、ピーテル・ブリューゲル父の「叛逆天使の墜落」。第653回で紹介した「悪女フリート」と共に「第2のヒエロニムス・ボス」という彼の評価を決定づけることになった作品です。
大天使ミカエルとそれを助ける天使たちが、高慢や嫉妬のために神に逆らい、天界を追放された叛逆天使(堕天使)たちを一掃する戦闘場面を描いたものです。
天界から墜落するにつれ彼らの真性を象徴する異様な怪物へと変身していった叛逆天使たちがボスばりの想像力と創造力で描かれ、独特の色彩や質感の表現に画家の卓越した技巧が発揮されています。
17世紀フランドル絵画を代表する巨匠ルーベンスには広い一室が割かれており、大作が居並んでいますが、その中から「東方三博士の礼拝」を選びましょう。
膨大な数の宗教画を残したルーベンスの傑作のひとつで、登場人物の生気溢れる表情が、作品に真実味を伴う聖なる雰囲気を生み出しています。
ルーベンスとの共作も多い、前々回で触れたスナイデルスの作品も数点あり、その中から「白鳥のいる静物」を添付しました。
アントワープでルーベンスの跡を継いだヨルダーンスにも一部屋宛がわれています。
彼が繰り返し描いた「酒を飲む王様」はフランドル地方の民間行事の一コマで、毎年1月6日親戚や友人が集まり、王様を選び、賑やかな宴会を持ったのです。
慣例に従い、王様は「王様が召し上がる!」という一同の唱和に合わせて、杯を一息に干さなければならなかった。
画中の人物の表情描写の巧みさや、活気に満ちた全体の雰囲気など、ルーベンスやヴァン・ダイクとは異なり民衆的な風俗画に天分を見出したヨルダーンスのよさが十分に発揮されています。