戻る

美術館訪問記 - 650 アルハンブラ宮殿、Granada

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:アルハンブラ宮殿遠望 写真:Creative Commons

添付2:ナスル朝宮殿内部

添付3:アラベスク模様の壁

添付4:二姉妹の間 写真:Creative Commons

添付5:ライオンの中庭

添付6:アラヤネスの中庭

添付7:夏の離宮ヘネラリフェ

添付8:アルハンブラ宮殿から見たアルバイシン地区

添付9:グラナダのパラドールの中庭

前回のコルドバから南東に130㎞程の場所にグラナダがあります。

紀元前8世紀からイベリア人が居住し、古代ローマの支配下に入った後、711年、前回名前を出したイスラム王朝ウマイヤ朝に占領されます。その後、1013年、グラナダ王国として独立。

1492年のレコンキスタ完了まで、イベリア半島におけるイスラム最後の王朝として長く繁栄を誇った古都です。

1492年というとスペインのイサベル女王から派遣されたコロンブスがアメリカ大陸を発見した年で、西隣のコルドバ王国が1236年にスペイン領になっていたことを考えると、よく250年以上も持ちこたえたとも言えます。

グラナダと聞くと反射的に「アルハンブラ宮殿」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

私もグラナダと聞いただけで、あのギターのトレモロ演奏の傑作「アルハンブラの思い出」の哀愁あるメロディーと共に、アルハンブラ宮殿の悠久の物語を紡ぎだす、壮麗ながらどこか寂し気な佇まいが浮かんでくるのです。

グラナダ王国最後の王ムハンマド12世は、イサベル女王の軍に、涙をためながら無血開城して去っていったと伝えられています。宮殿を見たイサベル女王は、あまりの美しさに感動し、建物の保存を決意。

その美しさゆえ破壊されずに、奇跡的に今日に伝えられているアルハンブラ宮殿。イスラム建築の最高峰といわれ、ユネスコ世界遺産にも登録されています。

アルハンブラ宮殿の意味は「赤い城」。初代王から建設が始まり、歴代の王により受け継がれました。宮殿と呼ばれていますが、内部は王の宮殿をはじめ、貴族の館やモスク、市場、軍事要塞などが整備された城塞都市を形成し、城内には貴族を中心に2000人以上が暮らしていたと言われます。

この街の緑豊かな丘の上に建つアルハンブラ宮殿は、後のキリスト教徒の王たちによって改築や増築が続けられたため、アラブ様式だけでなく、中世イタリアのルネサンス様式など、芸術性ある建物が調和よく混在しています。

アルハンブラ宮殿の敷地内は、まさに楽園。広大で美しいエキゾティックな庭園と、幾つもの壮麗な建物が点在しています。

それらの内、印象的な場所を採り上げてみましょう。

アルハンブラ宮殿の心臓部と言われるナスル朝宮殿。王の居住空間でもあり、政治を司っていたこの建物は、典型的なアラブ様式の建物。

内部は、どの部屋の壁や天井にもアラベスクと呼ばれる幾何学模様装飾が施され、技巧の精密さに圧倒されます。その豪華さからイスラム芸術の最高峰と言われ、建設当時は「王は魔法を使って宮殿を完成させた!」と人々を感嘆させたとか。

ナスル朝宮殿の中で、特に美しいのが二姉妹の間です。この部屋は、イスラム教の預言者ムハンマドが弾圧から逃れて籠った洞窟を表して造られています。

八角形の天井は、預言者を追手から守った巨大な蜘蛛の巣を表し、「ムカルナス」と呼ばれるイスラム建築特有のデザイン、5416個もの鍾乳石飾りが緻密な計算によって施されています。息を呑むほど神秘的な美しさです。

ライオンの中庭周辺には124本もの大理石の柱が立ち並び、梁から天井にかけては細かい彫刻が施された、優美な空間です。

アラヤネスの中庭は、イスラム建築の特徴をよく表しています。空間をうまく利用してより広く見せること、目指すところは、自然との調和です。砂漠の民による水の芸術に感心させられます。

第172回で紹介したインドのタージ・マハルと共通する、水面に映る建築を愛でる美意識を感じました。

城壁から少し離れた場所にある夏の離宮ヘネラリフェは、13世紀に建設され、離宮中央にスペインにおけるイスラム庭園の代表と言われるアセキアの中庭があります。噴水を配置した庭園の周りには、全長50mの回廊が続いています。

イベリア半島におけるイスラム教徒の栄枯盛衰の象徴とも言うべきアルハンブラ宮殿ですが、19世紀にアメリカの作家ワシントン・アーヴィングがナスル宮の一室で執筆していた当時は、勝手に貧しい人々が居つく廃墟同然でした。

しかし、彼が1832年に旅行記「アルハンブラ物語」を発表すると、瞬く間に世界中にその名が広がり、多くの観光客が訪れるようになりました。

アルハンブラ物語は岩波文庫で翻訳版が出ていますから、興味のある方はどうぞ。

アルハンブラ宮殿の敷地の北西のエリアからは、白壁と赤褐色の屋根で統一されたアルバイシン地区が一望出来ます。

迷路のような細い路地に、アラブ商店街やパティオのある高級住宅が整然と建てられている眺めはスペイン・アンダルシア地方独特の素晴らしさです。

話は変わりますがスペインには国営のホテル、パラドールが全国に散在しています。地方ではこのパラドールが最も格式が高く、安心して宿泊できます。

特にグラナダのパラドールはアルハンブラ宮殿の敷地内にあり、15世紀に建てられたフランシスコ会修道院を流用したもので風情があります。トレドとグラナダはパラドールに宿泊するのがお勧めです。