前回触れたようにカタルーニャ国立美術館の1階最後の大きな1室が「ティッセン=ボルネミッサ・コレクション」の展示に充てられています。
第356回で解説した通り、個人の収集したものでは実質的に世界一のティッセン=ボルネミッサ・コレクションは1993年にスペイン政府に売却され、その内の1割程がマドリードの美術館からバルセロナ市へ永久貸与になっています。
当初はバルセロナ郊外の高級住宅地にあるペトラルベス修道院で展示されており、私達が2004年7月にスペイン旅行をした際には、3層の繊細なアーチのある美しい回廊付きの修道院で豪華なコレクションを堪能したものでした。
それから暫くしてカタルーニャ国立美術館に常設展示されることになり、2004年に移され、追加貸与されているカルメン・コレクションと共に展示中。
この展示室の中央に、両脇は開いていますが、3室に区切る風に天井まで届く仕切りが2つあります。その仕切りの中央に、入口に向いてフラ・アンジェリコの、最も油の乗った時期の傑作「謙譲の聖母」がかかっていました。
フラ・アンジェリコとレオナルド・ダ・ヴィンチにしか描けない、聖なる顔と、衣装を纏った4人の天使が4隅に配され、中央に大きく描かれた聖母が、白百合の生けられた金色の花瓶を右手に持ち、幼子キリストを左手で抱いて坐っています。
聖母と2人の天使の纏う衣の薄青色の清らかさ、全体の金地の艶やかさ。観ているだけで幸せになる、素晴しい佳品です。
その隣に並んで掛けてあるロレンツォ・モナコの「玉座の聖母子と6天使」も彼の作品中でも一、二を争う秀抜な出来です。
一見、ジョヴァンニ・ベッリーニかと思った程よく似た主要人物や風景描写と柔らかさを湛えた絵画が目に留まりました。「聖母子と聖アグネス」。ただし幼子キリストの顔はベッリーニとは全く異なりますが。
画家名はピエトロ・デリ・インガッナティ。イタリア、ヴェネトの生まれで、1500年頃から1548年までヴェネツィアで活動。ジョヴァンニ・ベッリーニの強い影響を受けています。
聖アグネスはキリスト教の聖人で西暦291年ローマの上流階級の生まれでした。
純粋なキリスト教徒でしたが、可憐な美少女に育ち、横恋慕した長官の息子の求婚を断ったため、父親の長官が彼女をキリスト教徒として告発。
息子の求婚を受け入れれば告発を取り消すという姑息な手段に出ます。しかしまだ13歳にも拘らず、アグネスは信念を貫き、様々な無法な仕打ちを奇跡的に潜り抜けるのですが、最後は斬首されて殉教するのです。
聖アグネスも西洋絵画にはよく登場します。この絵では殉教者の印である棕櫚の葉を持っています。白い小羊や剣、燃える薪の山等を伴うこともあります。
他にも流石ティッセン=ボルネミッサと認めざるを得ない質の高いコレクションが揃っていますが、ルーベンスの「聖母子と聖エリザベス、幼子洗礼者ヨハネ」とカナレットの「ブチントーロ」、ドメニコ・ティエポロの「両替商を神殿から追い出すキリスト」を添付しておきましょう。
ブチントーロとは、ヴェネツィア共和国の総督が乗るガレー船のことで、絵の中央に赤と金で飾られている船を指します。
ヴェネツィア共和国では1798年にナポレオンに滅ぼされるまで、毎年復活祭に行われる海との結婚という行事で総督がアドリア海に出港するというパフォーマンスに使用されました。
貸与されているティッセン=ボルネミッサの妻カルメンのコレクションはカタルーニャ出身の画家達の作品で、前回名前を出したラモン・カサスの「オープンエア・インテリア」もありました。