前回「世の中、捨てたものではありません」と書きましたが、 この時の旅では、前日にもそう感じたことがありました。
第33回で触れたラヴェンナの30㎞程南にチェゼーナという古都があります。
古代ローマ以来の歴史を持つ街で、ルネサンス期にはマラテスタ家のもとで繁栄。 ヨーロッパ最古の市民図書館とされるマラテスティアーナ図書館が開設され、 18世紀から19世紀にかけて3人の教皇を輩出している由緒ある都市です。
この街の中心、リベルタ広場に面してある 「チェゼーナ・リスパルミオ美術館」に行くと開館時間なのに閉まっています。
この美術館は銀行の所有物で、1876年建築の3階建ての立派な銀行の建物の中に 入っているので、銀行の守衛室に行くと壮年の屈強な男が座っています。
どうなっているのか聞くと、何処かに電話して、 今日は休みで明日は開館すると言います。
「とんでもない、今日だけしかここにはいられない。本来開館している筈で、 ここにあるソドマの絵のために日本から来たのに」と言うと、 何やら電話をかけまくっていましたが、やがて、自分が案内すると言います。
一緒にエレベーターで3階に上がり、閉まっていた扉の鍵を開け、 電源も全て自分で入れ、こちらが見物している間、心配そうに付いて回ります。
展示品が素晴らしかったので、そう言うと、実に嬉しそうな顔をしました。 最後に握手して、丁寧に礼を言いましたが、心温まる出来事でした。
展示されていたソドマの「聖家族と洗礼者ヨハネ」は期待通りの傑作でした。
この美術館で新たに認識したのは3作あったマルコ・パルメッツァーノ。
チェゼーナの北西20㎞足らずの古都フォルリで生没しており、 フォルリ派の中核と言えます。1460年頃の生まれ。
第98回で紹介したメロッツォ・ダ・フォルリに師事し、 師の死亡した1494年から95年にかけて、ローマからヴェネツィアを旅して ジョヴァンニ・ベッリーニとチーマ・ダ・コネリアーノの強い影響を受け、 その画風を死ぬ1539年まで維持しました。
ヴェネツィアからフォルリに戻ると、自分の工房を構え、 仕事でエミリア・ロマーニャ各地やロレートに旅した以外は 死ぬまでフォルリに留まりました。
ジョヴァンニ・ベッリーニとチーマ・ダ・コネリアーノを融合したような、 豊かで明るい色彩と端正でバランスのとれた構図が素晴らしい。 彼の宗教画の背景となる風景はリアルで真実味が感じられます。
第171回で触れたルネサンス期の自立した女流画家ラヴィニア・フォンターナの 父親で、ボローニャ派初期の代表的画家だったプロスペロー・フォンターナ作 「聖カタリナの秘密の婚約」も佳品でした。