美術館訪問記-55 ペーザロ市立美術館

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(* 長野一隆氏メールより。画像クリックで拡大表示されます。)

添付1:ジョヴァンニ・ベッリーニ作
「聖母の戴冠」全体図

添付2:ジョヴァンニ・ベッリーニ作
「聖母の戴冠」

添付3:ジョヴァンニ・ベッリーニ作
「荒野で祈る聖フランシスコ」
フリック・コレクション蔵

添付4:ペーザロ市立美術館入口

添付5:ドメニコ・ベッカフーミ作
「聖家族」

前回イタリア美術の代表として挙げた3人の中で ジョヴァンニ・ベッリーニについてはまだ詳しくお話していませんでした。

彼はヴェネツィア派の創始者とみなされるヤコポ・ベッリーニの次男で、 長男のジェンティーレ・ベッリーニも立派な画家です。 しかしこの3人の中ではジョヴァンニが最大の巨匠であるのは 誰しもが認めるところ。

彼は父や兄の影響は勿論受けていますが、最も強く影響されたのは 彼の姉ニコロシアと結婚したアンドレア・マンテーニャでしょう。

マンテーニャは1431年生まれとジョヴァンニの1つ年下ながら、 パドヴァとフィレンツェの卓越した画家達の間でもまれ、 既に遠近法やテンペラ画法をマスターしていました。

ジョヴァンニ・ベッリーニの作品は世界78箇所に残っています。 アジアでは八王子の東京富士美術館にもあります。

傑作が数ある中で最高傑作として挙げたいのは、 イタリア、ペーザロにある「ペーザロ市立美術館」にある「聖母の戴冠」です。

この大祭壇画は、全てを含めると縦7m横4mにも及ぶ巨大なものですが、 頭頂部を飾っていた「ピエタ」は現在ヴァティカン美術館の所有となっています。 残りがペーザロにあるわけですが、それでも縦5m、横4m。

本体の聖母の戴冠はパネルに油彩で描かれ、縦262cm横240cm。 下に聖書の中からとった7つの挿話からなるプレデッラ、 両脇に縦に4人ずつ8人の聖人像が付け加わり、全体が荘厳に金で覆われ、 細やかなレリーフの施された大祭壇となっています。

これほど出来と保存状態の良いベッリーニは見た記憶がありません。 強いて挙げれば、ニューヨークのフリック・コレクションにある 「荒野で祈る聖フランシスコ」でしょうか。 あれも、その前に立つと、いつも襟を正して凝視せざるを得ない名作です。

ペーザロの祭壇画はベッリーニの1475年の制作。 フランドルで体系化された油彩画技法をイタリアで最初に習得したとされる アントネッロ・ダ・メッシーナがヴェネツィアに行き、 ジョヴァンニ・ベッリーニ達に最新の油彩画技法を伝授したのが 1475年とされていますから、それまで油彩画を多少描いていたとはいえ、 習い覚えたばかりの技法を見事に使いこなしているのには驚嘆するしかありません。

ジョヴァンニは優れた画家の常として吸収力旺盛で、 老いては弟子のジョルジョーネやティツィアーノの技法も、 ためらうことなくわがものとしていくのですから、 その生涯前進し続ける闘志は見上げたものです。

ペーザロ市立美術館は作曲家ロッシーニの故郷として有名な ペーザロの街の中心にあるトスキ・モスカ邸内にあり、 陶器美術館と絵画美術館が併設されています。