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美術館訪問記 - 542 シドニー & ロイス・エスケナジ美術館、Bloomington

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:シドニー & ロイス・エスケナジ美術館外観

添付2:シドニー & ロイス・エスケナジ美術館内部

添付3:ルカ・ジョルダーノ作
「エジプトへの逃避」

添付5:マッケ作
「森の小川」

添付7:エドモンド・ターベル作
「果樹園にて」シカゴ、テッラ財団蔵

添付8:エドモンド・ターベル作
「繕い物をする女」

添付9:エドモンド・ターベル作
「第30代大統領カルビン・クーリッジ」
ワシントン、国立肖像画美術館蔵

添付10:「2歳の聖徳太子像」
13-14世紀作

シカゴの南300㎞余り、州都のインディアナポリスからは70㎞程南西の場所にインディアナ州、ブルーミントンという市があります。

人口8万5千人足らずの大半がインディアナ大学や他の学校の学生、教職員、関連業者で占める典型的な大学町です。

インディアナ大学の広大な敷地の隅にあるのが「インディアナ大学美術館」。

設立は1941年ですが、現在の建物は日本のMIHO MUSEUMと同じI.M.ペイの設計で1982年の完成です。3階まで吹き抜けで、屋根を含む一面がガラスになっている凝った造り。

3階建てで1階が西洋美術と特別展、2階がアジア、中近東、3階がアフリカ、南北アメリカの美術品展示となっています。

ここは大学付属美術館とは思えぬ程充実したコレクションで驚きました。それでも展示品は1400点程で、所蔵品は45000点に及ぶのだとか。

ただオールド・マスターは少なく、ルカ・ジョルダーノの手慣れた感じの「エジプトへの逃避」以外は、観られたのは数点のみでした。

その代わりと言うのも変ですが、近現代絵画のコレクションは素晴らしい。

その筆頭はバルテュスの大作で、世界26ヶ所でしか観られない彼の作品を所有している大学付属美術館はここだけです。

キルヒナーやノルデ、マッケ、ガブリエレ・ミュンター等のドイツ表現主義の画家達の作品や「画家貴族」レンバッハが揃っていたのはアメリカでは珍しい。

特にマッケの「森の小川」は1910年作という彼が23歳時の作品ですが、彼のフォーヴィスムへの関心と自然への想いを共に満たすもので、ほのぼのとした暖か味と透明感ある豊かな色彩、セザンヌを思わせる単純化した構成、底流に漂う詩情という彼の特性を早くも発揮しているのでした。

ヴラマンクとヤウレンスキーの静物画も印象に残るものでした。

アメリカ絵画も一通り揃っていますが、中でエドモンド・ターベルの作品に興味が持て、彼はまだ説明していなかったこともあり、採り上げましょう。

ターベルは1862年、マサチューセッツ州の生まれで、翌年父が死亡し、母は再婚したので、姉と共に父方の祖父母の下で育てられます。

15歳でボストンのリトグラフの会社で徒弟奉公の傍らボストン美術館付属美術学校へ通い、1883年、パリに向かいます。

ルーヴル美術館で古典絵画を複写して修業しながら、当時吹き荒れていた印象派の影響も受けつつ、イタリア、ベルギー、ドイツ、イギリスにも遊学。

1886年ボストンに戻り、イラストレーターや肖像画家、絵画の個人教師として働き、2年後、絵画の生徒だった裕福な家庭の娘と結婚。4人の子供に恵まれ、彼の絵の主題は妻や子供達、孫達や彼らとの生活を描くことが多くなります。

1889年からボストン美術館付属美術学校の教師となり、1914年にはボストン芸術家組合の初代会長に選ばれ、1918年にはワシントンのコーコラン美術学校の校長に招かれるなど活躍して68歳で教育畑からは引退。

1891年、発表した「果樹園にて」で画家としての名声を確立。この絵は妻と彼女の兄弟たちの団欒風景を描いたもので、ターベルは風景の中にいる人々を色彩豊かに印象派風に描く画家として評価されたのです。

彼の後期の絵はフェルメールの影響を色濃く示すようになります。この美術館にある1905年作の「繕い物をする女」は左側の窓からの光の中で室内に置かれたテーブルの側に座る女性と幾つかの小物という構図と落ち着いた色彩と光の扱いなどにフェルメールを感じる人も多いでしょう。

ターベルは肖像画家としても人気が高く、ウッドロウ・ウィルソンやカルビン・クーリッジ、ハーバート・フーヴァーの歴代大統領や名士たちの肖像画を数多く残しています。1938年死去。

2階の日本美術のコーナーで国芳等の名前が漢字と英語で表示してあるのは外国では非常に珍しい。さすが大学付属の美術館。鎌倉時代に描かれた空海の肖像画と2歳の聖徳太子の木造彫刻も良い作品でした。

この美術館は2016年、1500万ドル(当時約18億円)という破格の寄贈をした篤志家に敬意を表し、「シドニー & ロイス・エスケナジ美術館」と改名しました。



(添付4:バルテュス作「窓」、添付6:ヴラマンク作「静物」は著作権上の理由により割愛しました。
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