前回のベルクグリュン美術館と道を挟んで向かい合っているのが「シャルフ・ゲルステンベルク・コレクション」。
建物の形状はベルクグリュン美術館と双子のように瓜二つ。
それも道理、これらの建物はプロイセン王フリードリヒ・ウィルヘルム4世の命により、博物館島の旧国立美術館や新博物館を設計したフリードリヒ・アウグスト・シュティラーが1851年から1859年にかけて同時に建設したものなのでした。
プロイセンの実業家でコレクターでもあったオットー・ゲルステンベルクの収集作品を受け継いだ孫のディーター・シャルフがシュルレアリスム中心の自分のコレクションを加えて、シャルフの死の前年の2000年にベルリンで公開したもの。
現在では二人の名前を冠した国立美術館として2008年からこの地で開館中。
内部は外見と異なり、ベルクグリュン美術館とはかなり違っていて、奥行きのある展示室やベルガモン博物館は一杯で置く場所がないというエジプト時代の所々剥落した大きな化粧門も置かれていました。
ゲルステンベルクは主としてロマン主義や象徴主義の作品を収集しています。
ロマン主義は17世紀以来の古典主義を人間精神の内奥の力を否定したものとして攻撃,なによりも個性や自我の自由な表現を尊重し,知性よりも情緒を,理性よりも想像力を,形式よりも内容を重んじました。
文学におけるロマン派の旗手で「ロマン主義は遅れて来たフランス革命だ」と言った文豪ヴィクトル・ユーゴーのインク画がありました。
ユーゴーは23歳でレジオン・ドヌール勲章を受章するという早熟の天才でしたが、絵画も素人の域を抜けているようです。
象徴主義は19世紀後半の運動で、人間の内面や夢、神秘性などを象徴的に表現しようとするもので、ここには象徴主義の代表とされるモローの一作に加え、ルドンの佳作が6点もありました。
特に美術館本の表紙にもなっている女性の首だけが空中に漂う「ゴヤへのオマージュ」は印象的でした。
ルドンの生まれ故郷のボルドーで最期の4年間を過ごした、異郷スペインの画家で近代絵画の父とも言われるゴヤへの特別な想いが伝わって来ます。
シュルレアリスムは1924年、詩人アンドレ・ブルトンの「シュルレアリスム宣言」によって始まったとされています。
彼はシュルレアリスムという言葉を創り、その定義を明確化しました。シュルレアリスム(超現実主義)とは「今まで人間が作ってきた制約を離れて、思考の裏側にある無意識の世界を表現する事」なのです。
シュルレアリスムを代表する画家マグリットの「夜のガスパール」がありました。
ラヴェル作曲の同名の曲の方が有名ですが、元は19世紀のフランスの詩人アロイジウス・ベルトランの同名の散文詩から来ています。
この詩をアンドレ・ブルトンが「詩におけるシュルレアリスムの先駆け」と称賛したため、当時の芸術家たちの注目を集めたのでした。
荒原の只中で燃え上がる家屋を岩の上から彫像のように見詰める鳥。どこからかぶら下がっている分厚いカーテン。まさに無意識の裏側をくすぐるような不思議な眺めです。
滅多に目を留めない写真ですが、ハンス・ベルメールの「人形」にはドキリとさせられました。
ベルメールはドイツ出身のシュルレアリスムの画家で写真家、オブジェ製作者で自作の等身大の関節人形を使用したオブジェや写真で知られています。
(添付7:マグリット作「夜のガスパール」 および 添付8:ハンス・ベルメール作「人形」は著作権上の理由により割愛しました。
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