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美術館訪問記-51 ウースター美術館

(* 長野一隆氏メールより。画像クリックで拡大表示されます。)

添付1:ウースター美術館正面

添付2:ウースター美術館内部

添付3:パオロ・ヴェネツィアーノ作
「7連祭壇画」

添付4:ピエロ・ディ・コジモ作
「蜂蜜を見つけたバッカス」

添付5:ソドマ作
「ギリシャ神話3話」

添付6:アンドレア・デル・サルト作
「洗礼者ヨハネ」

添付7:ゴーギャン作
「もの思う女」

添付8:チャイルド・ハッサム作
「冬の朝の食堂」

新年おめでとうございます。 新しい年が皆さまにとって良い年でありますように。 本年も宜しくお願い致します。

本年第一弾はアメリカ、ウースターにある 「ウースター美術館」を取り上げましょう。

ウースターはマサチューセッツ州ではボストンに次ぐ第2の都市です。 1776年ここで初めてアメリカ独立宣言が読み上げられた由緒ある町です。 ジョン・アダムスはこの町で教鞭を執っていたとか。

この美術館は日本では知る人は少ないと思いますが、素晴らしい名美術館です。

入って直ぐの所が吹き抜けの大広間で、ローマ時代の宮殿のよう。 アーチが幾つもある1階。アーチ付きの円柱が並ぶ2階。 広間の床と壁にはローマ時代のモザイクが嵌め込まれている。

此処だけでも一流美術館の風格が漂います。

大広間を眺めながら壁際の階段を上って2階のルネサンスの部屋に入ると、 ヴェネツィア絵画の礎を築いたパオロ・ヴェネツィアーノの7連祭壇画があります。

彼の作品はイタリア以外では ルーヴルやメトロポリタン等の大美術館でしかお目にかかったことはありません。 しかも650年以上前の作品とは思えぬ状態の良さ。

ますます期待が高まります。 この、次に何が見られるのかというワクワクするような気持も 美術館巡りの楽しみの一つでしょう。

ネーリ・ディ・ビッチやペセリーノ、カルロ・クリヴェッリ、マセイス等のある 部屋を過ぎ、次の部屋に入って瞠目しました。

何とハの字形になった壁にピエロ・ディ・コジモを真ん中に、 左にソドマ、右にアンドレア・デル・サルトがかかっている。 どの絵もそれぞれの壁の中央、目線の位置にある。 これらの希少な3人の絵が並んでいるのは、世界でも見た記憶がありません。

しかもどれも出来がよい。そもそもこの3人の油彩画を全部保持しているのは、 イタリア以外ではルーヴル、ロンドンのナショナル・ギャラリー、 ワシントン・ナショナル・ギャラリー、メトロポリタンの 世界の4大美術館しかないのです。

特にピエロ・ディ・コジモの「蜂蜜を見つけたバッカス」は、 彼の代表作と言える完成度。

ピエロがよく描く、ジグザグな道の続く小山を右に、 城壁のある街を左に遠景として、中央に蜂の巣のある大木を据え、 その両側で数十人の裸体のケンタウロスとバッカス、 僅かな衣装を着けた人々が陽気にはしゃいでいる。

ソドマの絵は3点もあり、何れもギリシャ神話を題材にしたもので、 何らかのシリーズ物の一部だったと考えられています。 レオナルド・ダ・ヴィンチの影響を受けた、 比較的若い時期の伸びやかな感性が現れた絵です。

アンドレア・デル・サルトの「洗礼者ヨハネ」は、 たまたま数名を引率してきたガイドの話を立ち聞きすると、 ウースターの某教会で埃を被っていたのを1977年偶然発見され、 町の総力を挙げて買い取ったのだとか。

世界48箇所にあるサルトの絵は1箇所を除き全て見てきましたが、 まごうことなき真作です。 彼の偽作は方々の美術館で散見しましたが。

この3人については次回以降触れましょう。

他にもマビューズ、グレコ、ルーベンス、レンブラント、ムリーリョ、カナレット、 ゲインズバラ、ゴヤ、ターナー、コロー、クールベ、ピサロ、セザンヌ、ルドン、 モネ、ルノワール、ゴーギャン、マティス、ルオー等錚々たる顔触れ。

勿論アメリカ人画家も一通り揃っています。 今回はその中からチャイルド・ハッサム(1859-1935)を選んでみましょう。

ハッサムはボストンの生まれで、高校中退でイラストレーターになり、 独学で絵を学び、1883年、ヨーロッパ各国を友人と学習旅行します。 帰国後結婚した彼は新妻とパリに渡り、4年間、描き溜めた絵を売りながら、 美術館や展示会を巡って研鑽に努めます。

この間印象派の画家達と交わる事はなかったようですが、 1889年帰国した時には、画風は完全に印象派になっており、 ニューヨークに居を構えて、アメリカを代表する印象派画家として活躍します。

1897年にはジュリアン・オールデン・ウィア、ジョン・ヘンリー・トワットマン、 ウィラード・レロイ・メトカーフ、エドモンド・チャールズ・ターベル等の10人で 「ザ・テン」として知られる印象派のグループを結成。 このグループは20年間続きました。

本場フランスの第1回印象派展が1874年で、 最後の第8回印象派展が1886年だった事を考えると、 アメリカの印象派の活動は遅れて始まり、長く続いたと言えるでしょう。

ハッサムの作品はちょっとしたアメリカの美術館には必ずあり、 ワシントンのホワイトハウスの大統領執務室にも彼の絵がかかっています。

ウースター美術館にはアメリカの美術館には欠かせない、 エジプト美術、ギリシャ・ローマ美術、中南米美術、アジア美術のコーナーもあり、 狩野探幽、酒井抱一、長沢芦雪、与謝蕪村等の作品もあります。 日本の17,18世紀の希少版を含む浮世絵も3000点も所有。

全米のトップ20には十分入る内容。 これだけの美術館が日本では全くと言ってよいほど知られていないとは。


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