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美術館訪問記 – 504 ズエルモント・ルートヴィヒ美術館、Aachen

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ズエルモント・ルートヴィヒ美術館正面

添付2:ズエルモント・ルートヴィヒ美術館内部 写真:Creative Commons

添付3:クラーナハ作
「ホロフェルネスの首を持つユディト」

添付4:ヨース・ファン・クレーフェ作
「サクランボの聖母」

添付5:ヨース・ファン・クレーフェ作
「キリスト磔刑」 国立西洋美術館蔵

添付6:ヤーコプ・ファン・ロイスダール作
「池と麦畑のある風景」

添付7:マックス・リーバーマン作
「公園にて」

添付8:ヤウレンスキー作
「頭部」

500回を過ぎて振り返ってみると、主要国中、ドイツを1年半ほど採り上げてなく、カバーしているのも29件と比較的少ないので、初めての試みとしてまだ触れていなかった地名のABC順に記述して行ってみましょう。

最初はオランダ、ベルギー2カ国と国境で接する町アーヘンにある「ズエルモント・ルートヴィヒ美術館」。

この美術館は実業家で美術収集家だったバルトルト・ズエルモントからの105点の絵画寄贈を基に1883年に市立美術館として開館。

その後多くの寄贈で所蔵品は増大し、1977年、ピーテル・ルートヴィヒ夫妻の中世から近代までの膨大な作品群の寄贈により、ズエルモント・ルートヴィヒ美術館と改名しています。

美術館は大通りに面する3階建て。家並みの中に埋没しており、外に何の飾りもなく、住所が判っていなければ、発見するのは難しい。見物客もほとんどなく、係の人間がやたら目につきました。

しかしコレクションは素晴らしい。クラーナハ、ヨース・ファン・クレーフェ、スルバラン、ヤーコプ・ファン・ロイスダール等のオールド・マスターからリーバーマン、ノルデ、ヤウレンスキー、ペックスタイン、マッケ等の近代絵画が多数の地元画家達の作品群に混在して展示されています。

館内は写真撮影禁止。添付写真はWebに公開されているものを借用しました。

クラーナハの「ホロフェルネスの首を持つユディト」は1531年の作ですが、彼はこの頃、同じ主題でユディトの人物像を替えた作品を数多く残しています。

彼は「ルクレティア」や「ヴィーナスとキューピッド」、「ルターの肖像」等同一主題の絵を大量生産していますが、ユディトは宮廷の貴婦人肖像を描くための偽装図ではないかという説が有力です。つまり、普通の肖像画よりも貴婦人が聖書の登場人物に擬せられる方を好んだという事なのでしょう。

尚、ホロフェルネスとユディトについては第480回を参照して下さい。

ヨース・ファン・クレーフェの「サクランボの聖母」が素晴らしい。

桜は聖母マリアの聖木とされており、サクランボは天国の果実となっています。この絵の右手前に置かれたリンゴは明らかに天国の果実の類推から天国追放をもたらしたアダムとイヴの原罪を象徴しています。

同様な絵が違う画家たちにより複数描かれており、今は紛失したレオナルド・ダ・ヴィンチの原画に基づくと考えられています。

ヨース・ファン・クレーフェは何度か名前を出しましたが、まだ説明していませんでした

彼は1485年頃フランドル地方に生まれ、1511年から1540年にかけてアントワープで活躍した画家ですが、詳細な事は不明です。

活動中、フランソワ1世の招きによりフランス宮廷で1年程過ごし、イタリアとロンドンに旅した事があるようです。宮廷人たちの肖像画を幾つか残しています。

現存作品はこの絵のような宗教画が最も多く、レオナルド・ダ・ヴィンチの影響が主題の選び方やスフマートの使用などの技術面でもみられます。

17世紀に入るとヨースの名は美術史上から完全に消えてしまい、再発見されたのは1894年、ケルンのヴァルラフ=リヒャルツ美術館にある三連祭壇画の背後にあったモノグラムがヨースのものと特定されたからでした。

再発見後は、それまで作者不詳だった絵の見直しが行われ、今では世界の主要美術館がヨース・ファン・クレーフェ作品を所蔵しています。

日本の国立西洋美術館にもヨースの三連祭壇画「キリスト磔刑」が常設展示されています。保存状態のよい傑作です。

他にも多数の中世の木造彫刻や写真、版画、装飾品等の展示もありました。ユニークなのは3階のステンドグラス・コーナーで、実に88点の作品がありました。これだけの数のステンドグラスを置いてある美術館を他に知りません。