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美術館訪問記 – 501 エルミタージュ美術館、近現代美術編

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:宮殿広場越しに見た旧参謀本部(エルミタージュ美術館)

添付2:マティスの部屋、左手に「赤のハーモニー」右手に「音楽」が見える

添付3:マティス作
「赤のハーモニー」

添付4:マルケ作
「ナポリの入り江」

添付5:デュフィ作
「ドーヴィル港のヨット」

添付6:シスレー作
「セーヌ湖畔の町ヴィルネヴ・ラ・ガレン」

添付7:ルノワール作
「女優ジャンヌ・サマリの肖像」

添付8:ゴーギャン作
「果物を持った女」

添付10:アンリ・ルソー作
「熱帯林にて、虎と牛の戦い」

エルミタージュ美術館の素晴らしさは、絢爛たるオールド・マスターばかりでなく 近現代美術も充実していることにあります。

レオナルド・ダ・ヴィンチからピカソに至る作品群を堪能できる美術館は 世界でも、こことワシントン・ナショナル・ギャラリーだけです。

古典美術と近現代美術を両方展示している美術館の数はそれ程多くなく、 レオナルド・ダ・ヴィンチの作品数は極めて限られているからです。

2014年に旧参謀本部が新装開館し、前回述べた5つの合体した建物の別棟として 近現代美術を展示しています。ここへ行くには一度外に出る必要があります。

近現代美術部門で最も感動したのはマティスの部屋でした。 私達が行った時はまだ本館にあったのですが、合計39点のマティス作品が 展示されており、中でも大作「赤のハーモニー」、「音楽」、「ダンス」は見事。

「赤のハーモニー」は2012年、日本でエルミタージュ美術館展が開催された時に 来ていましたから、ご覧になった方もおられるでしょう。

マティスの最高傑作とも評され、ロシアの大コレクターのセルゲイ・シチューキン の依頼で装飾パネルとして制作されたもので、セルゲイが住んでいたモスクワの マンションのダイニング・ルームに飾るためのものでした。

ねじれた青い蔓草模様と赤色の壁紙とテーブルクロスが、壁とテーブルの境を 曖昧な状態にし、部屋本来の3次元空間を消失させ、全体を1つの平板な 赤い空間にすることで、装飾性の高いパネルになっています。

「青のハーモニー」を描くように言われたマティスは出来上がった作品に失望し、 その作品の上に彼が好んだ赤色を塗ったといいます。

マティスとは長年の友人だったマルケの「ナポリの入り江」がありました。 白と黒と青の絵具の集まりだけで描写しているのですが、海の新鮮な空気と、光が 溢れた透明な雰囲気を伝えるには、この質素な手段で十分だと言っているようです。

一時マティスに感化され、フォーヴィスムの展覧会に参加したこともある デュフィが43歳を過ぎてから到達した、彼独自の軽やかで明るく、透明感があり、 薄塗りで、軽快なメロディーが聞こえてくるような自在な画風に達した後の 「ドーヴィル港のヨット」も楽しい絵です。

数多くある印象派の中からはシスレーの「セーヌ湖畔の町ヴィルネヴ・ラ・ガレ ン」。

初期印象派の詩情溢れる名作で、木々の枝葉で前景に陰影がつけられた伝統的な 構図ながら、空間の奥行きだけでなく、太陽光が全体に行き渡っているような 不思議な心地よさを醸し出しています。

ルノワールの描いたこの女優の3作の内の1作がプーシキン美術館展で日本に 来ていた「女優ジャンヌ・サマリの肖像」も目を惹きます。

ルノワールは「何と魅力的な女性だろう。彼女の全てが輝いていた」と絶賛して いますが、この美しい女優がわずか33歳の若さでこの世から去ることになろうとは 考えられもしなかったでしょう。

19点あるゴーギャンの油彩画の中で「果物を持った女」は彼の理想の美を 捉えているように見えます。女性達の顔は静謐で美しく、色と線は、 当時のタヒチの幻想的でおとぎの世界のような現実を、 時代を越えて今に伝えて来るかのようです。

油彩画だけでも30点あるピカソからは「アブサンを飲む女」。 この作品を含む第一次世界大戦勃発前に制作されたピカソの作品はマティスの 「赤のハーモニー」同様セルゲイ・シチューキンのコレクションだったもの。

「アブサンを飲む女」はコレクションの中で最も早い時期に描かれた、 スペインからパリに来て間もない、ピカソ20歳時の作品。

フランスの画家の間で流行っていたモチーフが、ここでは異質のドラマ性と 鋭い心理描写を含んでいます。青の時代に特徴的な孤独、哀愁、哀しみ、苦悩を 表現するための効果的な青と言えるでしょう。

そのピカソが称賛し、自分で購入もし、1908年には友人たちを集めて 「称える夕べ」を主催したアンリ・ルソーの「熱帯林にて、虎と牛の戦い」も ありました。

ルソーは、ジャングルを知ったメキシコ旅行の話をするのが好きだったようですが 実際は、彼はパリの税関で働きながら、街を離れた事はなく、絵葉書を見たり 動物園や植物園に行く事で、このような絵を描いていたのでした。



(添付9:ピカソ作
「アブサンを飲む女」は著作権上の理由により割愛しました。
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