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美術館訪問記 – 500 エルミタージュ美術館、オールド・マスター編

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:エルミタージュ美術館正面

添付2:エルミタージュ美術館内部大使の階段

添付3:レオナルド・ダ・ヴィンチ作
「ブノアの聖母」

添付4:レオナルド・ダ・ヴィンチ作
「リッタの聖母」

添付5:ジョルジョーネ作
「ユディト」

添付6:ティツィアーノ作
「若い女性の肖像」

添付7:クラーナハ作
「女性の肖像」

添付8:レンブラント作
「放蕩息子の帰還」

添付9:ムリーリョ作
「受胎告知」

添付10:ブーシェ作
「ヴィーナスの身支度」

添付11:ミケランジェロ作
「うずくまる少年」

今回でついに500回。はるけくも来つるものかなとも思いますが、意外と短かったような気もします。とはいえ、10年ひと昔、様々な変化の内に過ぎて来ました。

近親者や友人数人の旅立ちがあり、孫二人の誕生があり、幾つかの結婚式があり、600以上の訪れたことのなかった美術館の追加体験があり、120回を超す美術講演を経験したりして来ました。

今後も少なくとも1000回までは続けたいとは思いますが、どうなることやら。

当初はたくさん頂いていた感想文も、最近は全く反応がないことも多いので、この機会に「見ています」だけでも結構ですから、一言、頂ければ幸いです。

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500回記念は世界最高の美術館の一つ、「エルミタージュ美術館」にします。サンクト・ペテルブルクにあるロシアの国立美術館です。総収蔵品約300万点超の巨大総合美術館なので、オールド・マスター編と近現代美術編の2回に分けて記述しましょう。

エルミタージュ美術館はルーヴル、メトロポリタンと並ぶ世界三大美術館の一つであると同時に、パリのヴェルサイユ宮殿、ウィーンのシェーンブルン宮殿と並ぶ世界三大宮殿の一つでもあります。

従ってサンクト・ペテルブルクを訪れる観光客にとっては必ず訪れるべき施設の一つとなっており、常時、長蛇の入場待ち行列ができています。

入場券はインターネット予約可能で、2日分一度に予約できますから、これを入手しておくと、待ち行列に並ぶことなく、入場券が2日分購入でき、2日目は直接入場できるので、時間と入場料金の大幅節約が可能です。

巨大美術館なので、全ての展示品を観ようとすると、とても1日では足りませんし、初日は次に何が観られるのかと、どうしても先へと急ぎがちで、思わぬ見落としがでかねません。価値ある美術館は少なくとも2度訪館するのがお勧めです。

2日目は全体の把握ができているので、ゆとりを持って見学でき、初日は気が付かなかった絵や見方を発見する事がよくあります。

エルミタージュとはフランス語で隠れ家を意味し、ロシアの女帝エカテリーナ2世が1764年にベルリンの画商ゴツコフスキーから購入した225点の絵画を展示するために、ピョートル大帝が1712年建設開始の冬宮に隣接して建てた、彼女の個人用宮殿、小エルミタージュが名称の始まりです。

エカテリーナ2世はその後も手広くコレクションを増やしていき、歴代の皇帝もそれに倣い、1917年のロシア革命後は貴族や富豪たちから没収したコレクションで膨大な所蔵品を誇ることになりました。

現在の美術館は冬宮、小エルミタージュ、旧エルミタージュ、新エルミタージュ、エルミタージュ劇場の5つの建物が一体となって構成されています。継ぎ接ぎだらけで複雑な構成になっており、フロアープランを入手して、一部屋一部屋チェックしながら回る必要があります。

起点となる「大使の階段」と名付けられた部屋はエルミタージュを象徴する華麗さに満ちていて、思わず息を呑む事でしょう。

朝一番で1階個人客用入口から入ったら、右手に行き、大使の階段を上がり、193、194、195、198、204室と通り抜けて、207室から始まるイタリア絵画を見学するのがベスト。レオナルド・ダ・ヴィンチの2点の絵画があるため、普段は黒山の人だかりでゆっくり鑑賞できないからです。

但し厳寒の冬季は観光客も少なく、慌てる必要もないでしょうが。

そのレオナルドの2点は「ブノアの聖母」と「リッタの聖母」。

「ブノアの聖母」は1909年に建築家レオン・ブノアがサンクト・ペテルブルクで展示した、義父の美術品コレクションに含まれていたことから名付けられ、1478年、レオナルドが、画家として独り立ちして最初に描いた作品だと言われています。

それまでにない笑みを浮かべた人間的な聖母です。レオナルドは私生児で、父母は彼の誕生後すぐ別々の相手と結婚しており、母方の祖父に育てられたレオナルドが母への思いを込めたから、と解釈されています。

「リッタの聖母」は19世紀にミラノ貴族のリッタ家が所有していたことからこう呼ばれますが、レオナルドの弟子の手になるものという見方も強い。勿論、エルミタージュ美術館はレオナルドの真作としています。

ここには名作、傑作が数多く、絞り込むのは難しいのですが、ジョルジョーネの「ユディト」とティツィアーノの「若い女性の肖像」は外せません。

ドイツを代表するのはクラーナハの「女性の肖像」。クラーナハがザクセンの宮廷にいた時に制作されたもので、絵の遠方背景にはドナウ河の風景が見えています。どこか妖しげな雰囲気があり、いかにもクラーナハらしい。

オランダのレンブラントは油彩画を23点も所蔵しており世界でもトップクラス。特別展以外で一時に23点も彼の絵を観たのは初めてでした。

「放蕩息子の帰還」は聖書に出てくる寓話の中では最も絵画に採り上げられるものの一つでしょう。父と末弟が前面に、右側に兄二人、財産管理人と母親が背後に描かれています。静謐な雰囲気の中に登場人物たちの精神的内面を暗示する傑出した作品になっています。

スペインからはムリーリョの「受胎告知」。真摯で甘美なムリーリョの特徴がよく出ています。

フランスはブーシェの「ヴィーナスの身支度」。ロココ時代に流行した楕円形で描かれたこの絵は、ブーシェらしい明るいピンクとブルーの色調で、観ていて心地よく、手の込んだデッサンは優雅です。

イタリア以外では滅多に観ることのできないミケランジェロの彫刻「うずくまる少年」も見逃せません。

1530年頃の作ですが、彼の晩年の作品は、石の表面を研磨せず、ざらざらしたまま残すことが多くなり、ごつごつとした筋肉、重厚なプロポーション、対象の内面の躍動感を強調した形態となっています。