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美術館訪問記 – 490 ラッセル・コーツ美術館・博物館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:アルバート・ムーア作
「真夏」

添付2:ラッセル・コーツ美術館・博物館上部からの眺め
写真:美術館HP

添付3:ラッセル・コーツ美術館・博物館正面

添付4:ラッセル・コーツ美術館・博物館内

添付5:ロセッティ作
「ヴェヌス・ヴェルティコルディア」

添付6:ルイーズ・ジョプリング作
「フィリス」

添付7:イーヴリン・ド・モーガン作
「アウローラの勝利」

添付8:ジョン・ロダム・スペンサー・スタンホープ作
「裏切られた恋」

前回、アルバート・ムーアの事を書きながら彼の最高傑作が脳裏に浮かびました。

それが、1887年作の「真夏」。

女性達のまとうローブのオレンジ色が鮮やかで、中央の女性の眠る台座に飾ってあるマリーゴールドの花の色と呼応して甘やかでけだるいムードを醸し出す。その台座下部の装飾の描写が実にリアルで、この夢幻的な絵画を引き締めています。

前回のヨーク美術館で参照したアルバート・ムーアの絵のタイトルもマリーゴールドでしたが、彼はこの花の色彩とその雰囲気が好きなのでしょう。

この作品は「ザ・ビューティフル - 英国の唯美主義1860-1900」展として三菱一号館美術館で2014年1月から開催された展覧会にも来ていましたからご覧になった方もおられるでしょう。

この絵があるのは、イギリス、ボーンマスの「ラッセル・コーツ美術館・博物館」。ボーンマスはロンドンの南西140㎞程の場所にある、イギリス海峡に面した港町。

美術館は海岸線に面した丘の上にあり、眺望抜群。

前庭も手入れが行き届いていて、リゾート地の大邸宅の雰囲気ですが、この建物はボーンマス市長だったこともあるラッセル・コーツが妻アンの誕生日の贈り物として、自分が所有していたホテルの庭の隅に建てたもの。

1901年に完成したこの建物をアンは1907年、土地・家具類ごと市へ寄贈。ラッセル・コーツは自分の美術コレクションを同時に市へ寄贈。1919年、美術館・博物館として開館。2000年には増築部分も開館しています。

3階のカフェまでは無料で入れ、このリゾート地で寛ぐ人たちで混んでいました。入場料を払い、カフェに接した狭い入口を通って旧邸宅へ。

館内はラファエル前派とその親派やエリザベス朝期の画家たちの絵画で溢れ、思わぬ眼福に預かりました。

ムーアの大作「真夏」が他を圧していますが、好みによっては勝るとも劣らない作品の幾つかを紹介しましょう。

先ずはラファエル前派創始者の一人、ロセッティの「ヴェヌス・ヴェルティコルディア」。

この題名は古代ローマの詩の一部で「心変わりを誘うヴィーナス」の意味。手にした黄金の林檎と矢や、周りを取り囲むバラやすいかずらは、男性を破滅へと導く、女性の魅力と危険を象徴しています。

女流画家ルイーズ・ジョプリング(1843-1933)の「フィリス」という女性の上半身像も魅力的です。

ルイーズは再婚したジョゼフ・ジョプリングを通じて、ホイッスラーやジョン・エヴァレット・ミレイと親しくなり、当時のイギリスの先端的な芸術家のサークルに加わっています。画家として成功し、1887年に女性のための美術学校を設立し、美術技法に関する教科書 や自伝も出版した女傑です。

イーヴリン・ド・モーガンの「アウローラの勝利」も華やかで美しい。

画面右下隅には曙の女神アウローラが薔薇の花の付いたロープを巻き付けただけの全裸で横たわり、左下隅には黒いローブを纏った夜が観る者に背を向けて横たわっています。

画面中央には画面の2/3を占める大きさで大きな赤い羽根を付けた3天使が黄金色のチューニック(古代ローマ人の上衣)を纏って細長いトランペットを吹き鳴らしています。

イーヴリンの叔父で絵の指導をしたジョン・ロダム・スペンサー・スタンホープの「裏切られた恋」も謎めいていて神話の世界に誘い込まれるよう。