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美術館訪問記 –485 リーズ美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:リーズ美術館正面

添付2:リーズ美術館カフェ

添付3:リーズ美術館内部

添付4:エドワード・アーミテージ作
「報復」

添付5:エドワード・アーミテージ作
「セイレーン」

添付7:クールベ作
「村の淑女たち」

添付9:アントニオ・カノーヴァ作
「ヴィーナス」

添付10:ヘンリー・ムーア・インスティテュート外観

前回のヘアウッド・ハウスのあるリーズはロンドン、バーミンガムに次ぐイギリス第三の大都市で人口78万。ここには美術館が2つあるのでカバーしておきましょう。

市の中心部、リーズ・タウン・ホールに向かい合ってあるのが「リーズ美術館」。

大通りに面している図書館や市役所と共用の4階建てのビルディングの2階の大部分と1階の一部が美術館。

1888年開館でイギリスでも比較的古い美術館です。現在の建物は幾度かの改装を経て来ていますが、入口近くのカフェが昔の名残を残して壮麗です。

館内も広々として増築された部分は2階が天窓付きで明るく開放的

ここは豊富な近代美術コレクションを誇っていますが、これまで採り上げて来なかった2人のイギリス人画家について書きましょう。

添付の館内写真の扉横の「報復」を描いたエドワード・アーミテージは1817年、ロンドンの裕福な家の生まれで、パリの国立美術学校で6年間、ポール・ドラローシュについて学び、26歳で帰国。

歴史画や戦争画、物語画、聖書や神話を題材とした古典的な画風で、ヴィクトリア女王がお買い上げになるなど高く評価され、ロイヤル・アカデミーの教授に就任したりして活躍しました。

彼のもっとも有名な絵がここにある「報復」です。英国を擬人化した女神であるブリタニアが幼子を庇ってインド虎の犠牲になった母親の報復に虎を退治している様を描いていますが、これは1857年にイギリスの植民地だったインドで起こった暴動でイギリスの兵士や婦女が虐殺された事件の寓意画として人気を得ました。

海の航路上の岩礁から美しい歌声で航行中の人を惑わし、遭難や難破に遭わせるギリシャ神話の海の怪物セイレーンを描いた1作もありました。

松方コレクションの収集の手助けをしたフランク・ブラングィンの作品も5点ありました。ブラングィンは1867年、イギリス人の両親からベルギーで生まれ7歳で帰国後、ウイリアム・モリスの工房で修業しほとんど独学で美術を習得。

17歳でロイヤル・アカデミーの展覧会で認められ、美術の道に進みます。この絵を買ってくれた船主に頼んで彼の船で外洋を航海し、その経験を描いた絵がパリのサロンで賞を獲得したりもしています。

その後は船で甲板員として働き旅費を稼ぎながら、様々な土地へ旅しています。そのような経験に基づく彼の絵は外国の風景や働く労働者、工場、船舶などが多い。

こういう下地があったためか、第1次世界大戦の船舶需要で巨富を得た2歳上の川崎造船社長の松方幸次郎と1916年ロンドンで会った際、意気投合し、松方はフランクの作品を購入し、フランクは松方のコレクション拡充を援助します。

またブラングィンの創作領域は幅広く、油絵、水彩画、デッサンはもとより、壁画、版画、彫刻、イラスト、家具・食器・カーペット・ステンドグラス等のデザイン、建物や内装の設計などにも及んでいます。

ここにある「蹄鉄工」も彼の特色である茶系統の色彩で統一され、振り下ろされるハンマーの音や火花の出す硝煙臭さが伝わって来るようです。

他にも著名な画家たちの作品が数多く展示されていますが、クールベの少し珍しいのどかな風景画とアンドレ・ドランのいかにも野獣派という作品を添付しましょう。

新古典主義を代表する彫刻家、アントニオ・カノーヴァの見事な大理石彫刻もありました。これはウフィツィ美術館にあるローマ時代の彫刻を摸刻した4点のうちの最後の作品で本人が最も気に入っていたのだとか。

彫刻と言えば、イギリスを代表する彫刻家ヘンリー・ムーアはリーズ近郊の生まれで、リーズ美術学校の卒業生なのです。彼はリーズ美術学校の最初の彫刻の生徒で学校は彼のために彫刻のアトリエを造らねばならなかった。

ヘンリー・ムーアの彫刻はリーズ美術館の入り口前横にも展示されていますが、ヘンリー・ムーア・インスティテュートというヘンリー・ムーアが79歳時に創設した彫刻美術館兼研究所が隣にあります。

勿論ちゃんとした入口が別にありますが、リーズ美術館の2階から道路を跨いで造られた屋根付きガラス窓付きの橋でも行かれます。

名前からしてムーアの作品で満たされているのかと思っていましたが、私が訪れた時は彼の作品はなく、新人彫刻家達の作品が展示されていました。



(添付6:フランク・ブラングィン作「蹄鉄工」および 添付8:アンドレ・ドラン作「テームズ川に浮かぶはしけ」は著作権上の理由により割愛しました。
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