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美術館訪問記 - 475 アスコット

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:アスコット・ハウス

添付2:アスコット・ハウスへの小径

添付3:アスコット・ハウスからの庭の眺め

添付4:作者不明
「ペルジーノ作聖アポロニア頭部模写」

添付5:ペルジーノ作
「聖母子と諸聖人」 ボローニャ国立絵画館蔵

添付6:アンドレア・デル・サルト作
「聖母子と幼子洗礼者ヨハネ」

添付7:ゲインズバラ作
「リッチモンド伯爵夫人メアリー・ブルース」

添付8:ジョージ・スタッブス作
「パドックの2頭の馬」

添付9:ティエポロ作
「聖母昇天」

添付10:アルベルト・カイプ作
「道を馬で行く男のいる風景」

ワデスドン・マナーから北東に17㎞程の場所にレイトン・バザードという町があり、ここにも英国ロスチャイルド家の一員であるメイヤー・ド・ロスチャイルド男爵が1873年に購入後、甥のレオポルド・ド・ロスチャイルドに譲り、レオポルドが手を入れて彼の収集した美術品で飾った「アスコット」があります。

ここは門を入ると直ぐ駐車場で、ハウスまで1km程歩かされます。私が訪れたのは2010年9月10日でしたが、この日がシーズン最後の開館日。ここは夏季だけの開館です。

ここも現在ナショナル・トラストの管理下にありますが、2階には今もロスチャイルド男爵夫妻が生活中ということで、1階しか見学はできず、10室ほど。館そのものは英国の邸宅美術館の中では一番小粒の部類でしょう。

ただ庭は30エーカーつまり3万6千坪以上あり、これまでの常識を逸した大邸宅には比べようもないものの、十分な広さで、木立の間を抜けながらハウスへと辿る小路は個人の庭とは思えない趣。

屋敷の玄関を入ると老年の男性が笑顔で迎えてくれ、ナショナル・トラストのメンバー・カードをチェックしてフリーパス。ナショナル・トラストの当時の年会費は53ポンド、約9000円でしたが、これで英国に500以上ある施設に1年間無料で入れるのですから安いものでしょう。

入って直ぐの狭い通路の壁に事前の調べではなかったペルジーノの若者の胸像が掛かっており、それこそ目をくっつけるようにして眺められる。

どうも印象が弱いので、傍に居たこれも老年のスタッフに聞くと、笑いながら本物だと言います。後で買ったハウス本には“After Perugino”つまりペルジーノの原画に基づく模写と表記されていました。

帰国後調べてみると、原画はボローニャにある国立絵画館に展示されているペルジーノ作「聖母子と諸聖人」でそこに描かれた4聖人の一人、聖アポロニアの頭部を写していたのでした。

聖アポロニアはローマ帝国時代のアレクサンドリアで殉教したキリスト教徒で言い伝えによると、彼女は歯を全て乱暴に引き抜かれるという拷問を受けたという。

このために、アポロニアは歯科学や歯痛を患う者、歯に関する問題全ての守護聖人として崇敬されてきました。絵画では、歯を引き抜くためのはさみ(時には歯)を手にした姿で描かれています。

突き当たりの部屋の壁の中央にアンドレア・デル・サルトの「聖母子と幼子洗礼者ヨハネ」がありました。

背景の崖の描写は少し手抜きのようにも見えますが、中央の3人物は紛れも無くアンドレアの筆。ここでも一番の扱いと見え、他の部屋には幾つか並べてある絵もこの部屋にはこの一点しかありません。

アンドレア・デル・サルト(第54回参照)は私の大好きな画家の一人で展示されている世界中の12カ国、50ヶ所全てを観て来ましたが、中には2,3疑問符の付くものもありました。

2人いる女性看視員と彼の絵について少し話すと、わざわざ椅子を取り出してきて、坐って見られるように置いてくれました。幸い他に客もいません。暫らくアンドレアと対話するつもりで眺め入りました。

他には、ブーシェ、ゲインズバラ、ホガース、レイノルズ、ロムニー、ヤン・ステーン、ジョージ・スタッブス(第309回参照)、ティエポロ、アルベルト・カイプ、ターナー等。

アルベルト・カイプ(1620-1691)はオランダ、ドルトレヒトで名門の芸術家一族に生まれ、肖像画家だった父の下で修業しますが、風景画家として歩みます。

彼はオランダを広く旅して多くのスケッチを残していますが、イタリアから帰国した他の画家の影響を受けて1640年代中頃から、カイプより10年先輩のクロード・ロラン風の壮大で大気感が漂う詩情性豊かな理想的風景画を描くようになり、後に「オランダのロラン」と呼称されます。

カイプ自身は一度もイタリアに行った記録はないのですが。

特に早朝や夕暮れの輝く光の表現は秀抜で、18世紀末にはイギリスで高く評価されターナーにも強い影響を与えています。カイプの作品は世界中で見かけますが、特にイギリスでよく見ます。