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美術館訪問記- 469 ゾロトゥルン美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ゾロトゥルン美術館

添付2:ホドラー作
「ウイリアム・テル」

添付3:ハンス・ボック模写:ホルバイン作
「墓の中で死せるキリスト」

添付4:ホルバイン作
「ゾロトゥルンのマドンナ」

添付5:作者不詳
「野イチゴのマドンナ」1425年頃作

添付6:ヴァロットン作
「レッド・ペッパー」

添付8:ジョヴァンニ・ジャコメッティ作
「テオドラ」

添付9:クリムト作
「金魚」

前々回のラ・ショー=ド=フォンの北東東50㎞程にローマ時代からの古都ゾロトゥルンがあり、ここあるのが「ゾロトゥルン美術館」。

美術館は完全にシンメトリーな2階建て。2階のファサードにだけ4本の円柱が並ぶ。前庭中央に縦長のプールがあり、その中央に鉄棒のような形のローマン・シグネール作の「ブーツ」という彫刻が立っています。

2階に上がるとホドラーの「ウイリアム・テル」が歌舞伎で六法を踏むように、左手にボウガンを持ち右手を前に突き出し、左足を踏み込んで迫って来ます。力強い絵です。

バーゼル市立美術館で見たばかりのホルバインの「墓の中で死せるキリスト」が目に飛び込んで来ました。この絵は2点あったのかと作者名を見ると、ドイツ人画家ハンス・ボック(1550-1624)。まさに本物そっくりの模写です。

続いてこの美術館の至宝、そのホルバインの「ゾロトゥルンのマドンナ」。

中央にゆったりとしたビロードの青いマントと真紅の内着を着たふくよかな聖母が裸体の幼子を抱き、右手にゾロトゥルンの守護聖人聖ウルスが甲冑姿で立ち、左手には聖マーティンが司教の服装で乞食に金貨を恵んでいます。

乞食はマリアのマントの後ろから顔と恵みを受ける小皿を持った手の先だけを出しています。聖母子像に乞食が描かれている絵は他に観た記憶がありません。

他の4人は490年の時を経てややくすんで見えるのに、聖ウルスだけはまるで写真のように写実的で口髭を蓄え、現代人のような顔をしています。聖マーティンの衣、聖ウルスの甲冑と羽飾り、聖母のマントと王冠、下に敷かれたシルクのペルシャ絨毯等の質感が見事な傑作。

1425年頃描かれたというライン派の手になる「野イチゴのマドンナ」も色彩鮮やかな清涼感のある傑作。

スイスの画家も数多く、ホドラーの19点を筆頭にアンカー、ヴァロットン、ジョヴァンニ・ジャコメッティ、クレー、等が並びます。

ヴァロットンの「レッド・ペッパー」は彼には珍しい迫真の静物画。

特にこの町出身のクーノ・アミエは10点あり、印象的な作品が揃っていました。

アミエは日本の明治維新の年、1868年ゾロトゥルン州議会議長の家の生まれで、絵画の道を志し、18歳でミュンヘンの美術アカデミーに入学。ジョヴァンニ・ジャコメッティと生涯の友人になり、二人でパリに出て4年間修業し、色彩を形態に優先するスイス初の画家となって、スイスに戻るのです。

1898年ホドラーの肖像画を依頼されたアミエは、以後15歳年上のホドラーの影響を強く受け、師と仰ぐようになります。

アミエは93歳でスイスで没しますが、生涯に4000点を超す油彩画を残し、その内1000点以上が自画像でした。

彼の親友だったジョヴァンニ・ジャコメッティの「テオドラ」もありました。

スイスではツーク市立美術館とここにしかないクリムトの「金魚」にも瞠目。181 x 67cmという縦長の画面に浮遊するかのようなヌード3体を配し、中央左寄りに金色の金魚の頭部が顔を覗かせています。

特に一番下で赤毛の長髪を振り乱し、肥大な臀部と背を見せてこちらを振り向いている女性が意表を突き、忘れられない絵になっていました。

セザンヌやルノワール、ゴッホ、マティス、ルオー、ピカソ、ブラック等フランスで活躍した画家達の作品もあります。

クーノ・アミエの「黄色の山」が表紙になっている英語のカタログ本を購入して美術館を後にしました。



(添付7:クーノ・アミエ作「紫の帽子の婦人」および 添付10:クーノ・アミエ作「黄色の山」は著作権上の理由により割愛しました。
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