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美術館訪問記 - 468 MIHO MUSEUM

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:MIHO MUSEUM全景 写真:美術館HP

添付2:MIHO MUSEUMへのトンネル 写真:美術館HP

添付3:トンネル出口からの眺め

添付4:MIHO MUSEUM前景

添付5:エントランス・ホールからの眺め 写真:美術館HP

添付6:MIHO MUSEUM館内

添付7:ガンダーラ様式仏立像 写真:美術館HP

添付8:MIHO MUSEUM展示室 写真:美術館HP

添付9:伊藤若冲作
「象と鯨図屏風」 写真:美術館HP

添付10:白隠作
「達磨図」 写真:美術館HP

今日は元旦にふさわしい桃源郷のような美術館を採り上げましょう。

その名は「MIHO MUSEUM」。日本の美術館には珍しいアルファベット綴りです。

名は体を表すと言いますが、館名が「文明を総合的に世界的にみていこう」、「美術を通して、世の中を美しく、平和に、楽しいものに」という美術館設立の構想を表明しています。

パリ・ルーヴル美術館ガラスのピラミッドなどを手掛けたI.M.ペイの手になる斬新さと伝統美を融合した設計と、麓から木々の間とステンレス張りのトンネル、吊り橋を通って美術館へと至る構想は素晴らしい。

この美術館の設計コンセプトは「桃源郷」という事ですが、山間にポツンと建つ立地、トンネルを抜けた時の吊り橋越に木々の間から見える東洋的建物、幾何学的な複雑な形態のガラス屋根、フランス製のライムストーン(大理石)マニ・ドリを多用した床と壁、館内から見る美しい景観など、まさに現代の桃源郷と言えるでしょう。

桃源郷とは中国の古典、陶淵明の「桃花源記」に描かれた理想郷で、一人の漁師が芳香漂う桃花林に導かれるように彷徨い込んだ洞窟の向こうに、理想の楽園が広がっていたという物語です。その里では誰もが楽しそうに暮らし、漁師を家に招いてもてなしたといいます。

美術館は滋賀県甲賀市、信楽の山里にあり、信楽焼の店が並んだ通りを過ぎると、全く何もないような山中に分け入って行き、ひょっとして道を誤ったのかと疑念を抱き始める頃、漸く広い駐車場に行き着きます。

かなり埋まっている駐車場に車を停めて数段階段を上がると円形広場になっており、その一角にレストランと売店、休憩所の収まるレセプション棟があります。ここで入場券を購入。美術館までは更に500m程、木々に囲まれた緩やかな坂道を上がって行きます。

するとトンネルがあります。全長200m。ステンレス製の細かい目のパンチングメタル張りのトンネルは、時に山の緑を、時に桜の薄桃色を映し、季節の中で表情を変えるようになっています。

このような滑らかな表面をして独特の風情を醸し出すトンネルは世界でもここだけでしょう。「時空を超えるトンネル」と評する人もいるといいます。

トンネルを抜けると眼前に吊り橋と山小屋風の美術館入口が広がり、息を呑みます。

落ち着いた佇まいの入口に一歩足を踏み入れると、ガラスの屋根から降り注ぐ光と優しいベージュ色のライムストーンの壁面に包み込まれ、彼方まで穏やかな山々が連なる大空間が広がります。

屋根全体の構造体であるスペースフレームは、最もシンプルな形である三角形を幾何学的に組み合わせ、そこから生まれる大空間は構造美の極みと言えます。

窓外に見える、誂えたような枝ぶりの松は、ペイの指示により日本中を探し回り、ようやく手に入れたものなのだとか。

コレクションは、エジプト、西アジア、南アジア、ギリシャ・ローマ、中国・西域、日本など、幅広い地域と時代に渡ります。

コレクション形成に数百億円をかけたともいわれ、日本にある私立美術館のコレクションとしては有数のもの。

周囲の景観を損ねないよう、3階建ての建物の8割近くは地下に造られており、上部には山を復元しています。

南アジア展示室には、ガンダーラ様式の仏立像としては最大級という像高2.5mの偉容が照明に浮かんでいました。存在感が凄い。

他にも西アジアの「精霊と従者浮彫」、「戦勝図杯」、ギリシャの「ヘラクレス像」、通路床に置いてあり1階通路から全体が見下ろせるローマのモザイク、13世紀イランの「色絵樹下人物図鉢」、「ラスター彩群像図鉢」、16世紀イランの「メダリオン動物文絨毯」、1階のエジプトの「隼頭神座像」、「ナクト像」等。

2階北館にあった伊藤若冲作「象と鯨図屏風」、「双鶴・霊亀図」、12世紀の「持国天立像」、白隠作「達磨図」、曽我蕭白作「富士三保図屏風」尾形光琳作「大黒図」や世界で3点しか現存していないという曜変天目茶碗の1点、興福寺伝来飛天、野々村仁清作「色絵金銀彩花菱蓮弁文茶碗」など名品が目白押し。

ここは残念ながら展示品は撮影禁止。写真は美術館HPから借用しました。この美術館は年間の半分は休館しているので、行かれるときはご注意を。なお、レセプション棟と美術館の間は無料電動自動車も運行しています。