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美術館訪問記 - 457 ルーアン美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ルーアン美術館正面

添付2:ルーアン美術館踊り場壁画シャヴァンヌ作
「自然と芸術の間」

添付3:ヘラルト・ダヴィト作
「処女たちの中の聖母子」

添付4:フランソワ・クルーエ作
「ディアナの水浴」

添付5:カラヴァッジョ作
「キリストの鞭打ち」

添付6:ベラスケス作
「デモクリトス」

添付7:ジェリコー作
「灰色の馬」

添付8:モネ作
「灰色の大聖堂」

添付9:モネ作
「祝日のサン・ドニ通り」

添付10:ルーアン美術館内「彫刻の庭」

15都市の内の一つがルーアン。

パリの西北、大西洋まで60㎞程のセーヌ川沿いにある、 かつてはノルマンディー公国の首都として栄えたこの街は、 百年戦争の勇士ジャンヌ・ダルクが処刑された場所としても有名です。

その「ジャンヌ・ダルクの塔」近く、街の中心ノートルダム大聖堂とルーアン駅の 中間あたりに位置するのが「ルーアン美術館」。

1801年創立の、65部屋を有する地方都市としてはフランスでも最大規模の 美術館の一つで、堂々たる宮殿風の2階建てです。

正面の大階段には、この美術館創設時に描かれたシャヴァンヌの大壁画 「自然と芸術の間」があり、彼が多方面で活躍していた事が判ります。

この美術館にも数多くの名品がありますが、その内の数点を採り上げてみましょう。

先ずヘラルト・ダヴィトの「処女たちの中の聖母子」。

聖母子の周りに座しているのは若くして殉教した処女聖人たちで、皆それぞれの アトリビュートとなる物を手にしています。左手後方の男性は作者の自画像で、 右手の白い被り物の女性は彼の妻コルネリアと考えられています。

この絵は1509年頃ブルージュのシオンのカルメル会尼僧院のために、 謝礼なしで描いたという記録が残っています。

ダヴィトはジョルジュ・ド・ラ・トゥール同様、長い間忘れ去られていた画家です。 イギリス人美術史家で生涯の大半をブリュージュで過ごした ウイリアム・ウィールが1895年に出版したダヴィトの伝記で世に出ました。

ウィールがダヴィトを認識したのが、ブリュージュに残された古文書に 唯一ダヴィトのものとして記載されていた、この絵が基だったのです。

ダヴィトは1460年頃オランダ、ユトレヒト近郊の生まれで、ハールレムで修業後 ブリュージュに出てエイクやウェイデン、メムリンクら先達の模写をして腕を上げ 非常に精密な写実主義の伝統を受け継いだ最後の巨匠と言えるでしょう。

1496年、金細工師組合の長老格の娘コルネリアと結婚。 1501年には聖ルカ画家組合の長老格となっています。 1523年死去。ブリュージュの聖母教会に埋葬されました。

フランソワ・クルーエの「ディアナの水浴」がありますが、 これは複雑な意味の込められた絵です。

ディアナはローマ神話に登場する狩の女神で、彼女の水浴をたまたま覗き見た 狩人を鹿に変身させ、狩人の連れて来た猟犬に獲物として食い殺させてしまいます。 この絵の右側に哀れな鹿になった狩人の姿が描かれています。

この絵が複雑なのは、左側騎乗の男性はフランス王アンリ2世。 中央に立ちディアナに模されているのはアンリ2世の愛妾で、 絶世の美女と言われたディアナ・ド・ポワティエ。

ポワティエは20歳年下のアンリ2世が12歳の時から家庭教師となり、 その後彼の最愛の公妾として絶大な権威を振るうのです。

アンリ2世のお妃は2人共14歳の時にイタリアから嫁いできた カトリーヌ・ド・メディチ。この絵では左側に座して涙している女性です。

問題なのはアンリ2世が騎馬戦で目を槍で突かれて死んでいることです。 フランソワ・クルーエはカトリーヌ・ド・メディチのお気に入りの画家で、 この絵ではポワティエをその名の通りディアナに見立て、彼女の虜になった 夫、アンリ2世を殺してしまう悪女として暗喩していると考えられるのです。

フランソワ・クルーエは1510年頃トゥールの生まれで、父ジャン・クルーエの死後、 その跡をついで1541年に宮廷画家となり、歴代のフランス国王、フランソワ1世、 アンリ2世、フランソワ2世、シャルル9世に仕えました。 王直属の画家として、王家の精緻で端麗な格調高い肖像画を多く残しています。

他にもカラヴァッジョの「キリストの鞭打ち」、ベラスケスの「デモクリトス」、 ジェリコーの16作品、印象派やデュフィ、ドラン、モディリアーニなど 多数の作品があります。

印象派の中でもモネの作品は12点もあり、 彼はルーアンの大聖堂をモデルに30点の連作を残しましたが、 その中の一枚「灰色の大聖堂」がここに飾られています。

またモネには珍しく躍動感あふれる「祝日のサン・ドニ通り」も見逃せません。

ガラス張りの屋根から自然光が注ぐ「彫刻の庭」は、その名の通り 彫刻を観ながら寛げ、企画展もこの中庭に面する部屋で行われています。