戻る

美術館訪問記 - 458 ミネアポリス美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ジャン・クルーエ作
「シャルロット王女の肖像」

添付2:ミネアポリス美術館正面

添付3:ヴィンチェンツォ・ホッパ作
「聖パウロ」

添付4:コロー作
「人生の春」

添付5:ウイリアム・ダイス作
「ダマスカスのエリエゼル」

添付6:ボナール作
「田園の食堂」

添付9:ボナール作
「裸婦立像」

添付11:ミネアポリス美術館内部、日本書院

前回フランソワ・クルーエの事を書きながら彼の父親のジャン・クルーエの描いた可愛い王女の絵を思い浮かべていました。

フランス国王、フランソワ1世の次女のシャルロットの肖像画です。この可憐な王女はこの絵が描かれた年に麻疹のため僅か7歳で夭折してしまいます。

この絵があるのはアメリカ合衆国にある「ミネアポリス美術館」。

総合的な美術館として1914年に開館。創設時の入口が、円柱のあるギリシャ神殿風の荘厳な形で残っていますが、現在の入口は、1974年に子供のための劇場を併設した新館を増築した時に造られた、ガラス張りのモダンなビルディングで、旧入場口の反対側にあります。

3階建てで、3階にヨーロッパ、アメリカの西洋美術、全く同じ面積を使って2階にアジア、アフリカ、古代エジプト、ギリシャ、ローマ、中近東、南米アメリカの土着美術が展示されています。

西洋美術とその他の美術が同面積を占めるというのは、小さな美術館は別にして、アメリカでは稀です。

1階は子供達の作品を展示しているギャラリーと、カフェ、ブックショップになっています。この他に中2階にレストランがあります。

開館直後に一番乗りで、まず3階を見物しましたが、ここだけで4時間、途中昼食と息抜きの時間を入れると、たっぷり5時間かかりました。その充実度が知れるでしょう。

ただ、アメリカ中北部という、やや遅れて発達してきた地域上の理由か、ルネサンスとそれ以前の絵画はたいしてありません。

ルネサンス以前のコレクションは、ベルナルド・ダッディ、フラ・アンジェリコの小品2点とフォッパの佳品2点、チーマ・ダ・コネリアーノ、ティツィアーノ、クラーナハ3点ぐらいでしたが、エル・グレコのイタリア時代の大作と、ジャン・クルーエの思わず微笑むような名画が1点ずつあったのは幸いでした。

それ以降が充実しているだけに、この時期の作品がもう少し加われば、鬼に金棒でしょう。

その後の作品では、グアルディのため息の出る様な見事な風景画、ゴヤの死を意識した様な医師アリエータに看取られる自画像、コローの晩年に描かれる見事な女性像を彼お得意の風景の中に描いた垂涎の5作品。

ブグローの心暖まる母子像、アメリカでは殆ど見かけないウイリアム・ダイスの佳作、そのダイスに評価されたバーン=ジョーンズの両手に魚を握る珍しい人魚像。

ルドンの美意識を集約した生花、ボナールとヴュイヤールが持ち味を出し尽くしたそれぞれの大作、ドランの珍しい暗黒の大作自画像。

ミロの思わず鼻歌の出るような「スペインのトランプ」、キルヒナーの緑と青・紫色の佳作風景画、サージェントの詩情漂う名作「夕暮のルクセンブルク公園」。

エゴン・シーレの死の年に描かれた精気ある青年の肖像画、オットー・ディックスの一度見たら忘れられない少女像、白昼夢の静寂の世界に引き込まれる希少なバルテュスの一作、等、枚挙のいとまがないほど。

印象派、ポスト印象派の作品は当然のように網羅されています。勿論、インネス、ハッサム、ピール、ホイッスラー、モーラン、ハートレイ、ウッド、ラッセル、レミントン、オキーフ、ウォーホル等の、アメリカ人画家の作品も勢揃いしています。

ホーマーやホッパー、ベン・シャーン、アンドリュー・ワイエスが無いのは少し残念ですが。

アメリカ市民権は獲得できなかったものの、20世紀アメリカ画壇を代表する一人、国吉康雄の作品が1点だけありましたが、これは他美術館からのローンでした。

彫刻作品も軒並み揃っていますが、ここで刮目すべきは、画家の彫刻作品です。モディリアーニは元々彫刻家で不思議はなく、ドガやマティス、ピカソ、ミロ、エルンストの彫刻作品は至る所で見ますが、サージェント、ボナール、ダリとなると、滅多に見たことはないでしょう。

奈良美智の白い犬の大きな彫刻も通路の中央に陣取り、異彩を放っていました。彼の白犬のより大きな彫刻を、その前日、アイオア州デモインにあるジョン & メアリー・パッパジョン彫刻公園でも見かけましたから、奈良美智はアメリカではかなりポピュラーなようです。

2階の日本・中国・韓国美術の収集も並大抵のものではありません。日本の茶室や書院、中国・韓国の居室がそのまま美術館内に再現されています。

世界でもトップクラスに位置付けられる大美術館です。



(添付7:ミロ作「スペインのトランプ」、添付8:バルテュス作「居間」および添付10:奈良美智作「あなたの犬」は著作権上の理由により割愛しました。
 長野さんから直接メール配信を希望される方は、トップページ右上の「メール配信登録」をご利用下さい。管理人)