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美術館訪問記 - 456 リヨン美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:リヨン美術館

添付2:ペルジーノ作「キリスト昇天」

添付3:リヨン美術館2階踊り場の壁

添付4:シャヴァンヌ作
「諸芸術とミューズたちの集う聖なる森」
シカゴ美術館蔵

添付5:ルイ・ジャンモ作
「野の花」

添付6:ストッスコップフ作
「鯉のいる静物」

添付7:フラゴナール作
「岩」

添付8:グアルディ作
「カプリの建物」

添付9:ミレー作
「海兵隊士官の肖像」

添付10:コロー作
「聖セバスティアン」

添付11:ルドン作
「赤い小舟」

添付12:リヨン美術館前のテロ―広場

マルセイユの北北西300㎞程に、人口51万、フランス第3の都市リヨンがあります。 都市圏の人口は227万でパリに次ぎ、フランス第2の大都会とも言われます。

この街の中心、テロ―広場に面してあるのが「リヨン美術館」。

17世紀の旧ベネディクト派修道院を流用して1803年に開館しており、 大きな長方形の3階建て。広さ7000㎡、70室あり、ルーヴルに次ぐ、 フランスで最大規模の美術館です。

古代ギリシャ、エジプト、ローマ時代の出土品や彫刻、東洋美術、 14世紀から20世紀までの絵画、オブジェ、コインなどを展示しています。

美術館の入口は広場に面した建物を潜って入った中庭を抜けた反対側にあり、 入って直ぐの部屋にペルジーノの「キリスト昇天」がありました。 彼の習得した技法を全て使った最高傑作と言ってよいでしょう。

325 x 265cmの大作で、イタリアのペルージャやボローニャの美術館にもある 反転パターンの天使を使ったペルジーノの定型化した図像ではありますが。

大階段を囲む壁には、ピエール・シャヴァンヌの手による壁画 「諸芸術とミューズたちの集う聖なる森」が描かれています。

壁画では両端の約5分の1ずつが折れたコの字型なので観難く、全体が一面で 俯瞰できる、作家本人による縮小版がシカゴ美術館にあるので添付しておきます。

場面は深い山の中の水辺の桃源郷の夕暮れ時で、ギリシャ建築の前には、 建築、彫刻、絵画という造形芸術の3分野の化身として描かれた女性がいて、 9人の女神ミューズがその周りに集っています。

ミューズは芸術家に創造の霊感を与える9人の女神であり、博物館・美術館を表す 英語ミュージアムの語源となっており、美術館の壁を飾るにふさわしいものです。

ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌは1824年、 リヨンの織物業の名門の生まれで、病気療養のために過ごしたイタリアで ルネサンスのフレスコ画に感動し、画家の道を志し、パリに出て ロマン派の巨匠ドラクロワなどに師事しています。

当時はナポレオン3世によるパリ大改造計画のため多くの公共の建物が建造中で、 シャヴァンヌはそういった建物の壁画を多く依頼されるようになります。

パステル調と古典的な装飾的構成を採り入れた神話的、文学的、象徴的な 主題による格調高い画風により、当代随一の壁画家として名を成すのです。

フランスでは誰もが知っている偉大な画家で、後世にも影響を与えています。 マティスは、装飾的でありながら無駄のないシャヴァンヌの絵に影響を受け、 スーラはアトリエで直接指導を受け、静謐と永遠性を受け継ぎ、 ピカソも、美術館に何回も足を運び、シャヴァンヌの絵を模写しています。

フランスに留学した日本人画家が多数そのアトリエを訪れたことでも知られ、 フランスで直接シャヴァンヌに会った黒田清輝、藤島武二や、白樺派らを通じて 早くから日本に紹介され、多大な影響を及ぼしています。

この美術館にはシャヴァンヌより10年早くリヨンで生まれ、 リヨン美術学校から最高位の「金の月桂樹賞」を授けられたこともある ルイ・ジャンモの代表作「野の花」もありました。

彼もリヨン美術学校卒業後はパリに出てドラクロワに師事しており、 ロマン派と象徴主義の間を繋ぐ画家で、彼が師について行ったローマで出会った ナザレ派同様、神秘主義的で理想主義的な傾向を持つ画家です。

巨大な美術館で特筆すべき絵画は多いのですが、 あまり観たことのない作品を並べてみましょう。

世界でも数少ないストッスコップフの「鯉のいる静物」、 フラゴナールの彼にしては珍しい、「岩」と題する、 中央に大きな岩とその両脇に旅人を配した風景画、 グアルディの変わった構図の「カプリの建物」は、 縦長の楕円形の中にアーチ型の屋根を持つ通路から見通した風景画。

ミレーの「海兵隊士官の肖像」も異色。 コローが晩年に描いた「聖セバスティアン」も珍しい。

ルドンの「赤い小舟」も荒波に翻弄される、目に鮮やかな深紅の子舟と その乗船者達を画面の中央に配した図で、彼としてはこれしか見た事がありません。

3階の窓からテロ―広場を見おろすと、バルトルディの噴水を中心に 初夏の日差しを浴びながらそぞろ歩く人々の姿が楽しげでした。