戻る

美術館訪問記 - 455 カンティーニ美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:カンティーニ美術館正面

添付2:シニャック作
「マルセイユ港への入口」

添付3:マルケ作
「マルセイユ港」

添付7:カンティーニ美術館内部

添付8:マイヨール作
「フランスの島」

マルセイユ港近くには「カンティーニ美術館」があります。

1888年、マルセイユ生まれの彫刻家ジュール・カンティーニは
1694年に建てられたこの素晴らしい建物を自宅として購入、
1916年に彼のコレクションもろともマルセイユ市に寄贈しました。
1936年、市はカンティーニ美術館として開館。

これまでも、ベイヨンヌのボナ美術館やモンペリエのファーブル美術館など、 日本で全くと言ってよいほど知られていない芸術家のコレクションを 寄贈してできたフランスにある美術館を紹介してきましたが、 フランスでは何故、日本まで名の届くようには、一流でもない芸術家が これほどのコレクションを形成し得るのでしょうか。

日本では芸術家本人の作品を集めた個人美術館はあるものの、 芸術家自身のコレクションでできた美術館は思い浮かばないのです。 彼我の違いは国民の芸術評価の違いでもあるのでしょうか。

尤も漸く豊かになって来て、個人資産の蓄積が進みつつある日本でも 遅かれ早かれこのような美術館が出来て来るのだろうとは思いますが。

館内には彼が所蔵していたフォーヴィスムやシュルレアリスム期の絵画や彫刻、 戦後の現代美術など400点におよぶコレクションに加え、 その後の寄贈品や他館からの寄託品を展示しており、1900年から1980年までの 多くの重要な近現代美術が揃う美術館となっています。

シニャックやマルケ、マティス、ドラン、デュフィ、ピカソ、ミロ、レジェ、 エルンスト、カンディンスキーなどお馴染みのメンバーが勢揃い。

マルセイユにちなんだ題材が多いのは場所柄でしょうか。 カシスはマルセイユの南東5㎞ほどにある港町です。

滅多にお目にかかれないバルテュス作品が2点もあったのには驚きました。 何れもこれまで本でも見たことのない絵で1958年から1960年にかけての作品です。 勿論カンティーニの所蔵品ではなく、後の寄贈者のものでした。

バルテュスについては第188回で詳述しましたが、 27歳年上の友人だった天才ピカソが「20世紀最後の巨匠」とまで称えた逸材です。

画壇の帝王として君臨していたピカソは 「僕とバルテュスは、同じメダルの表と裏だ」とも語っています。

1958年作の「ランプのある静物」は彼としては珍しい未完成作品。

1953年、バルテュスはパリの田舎、シャシー村にある古城に移り住み、 兄の妻の連れ子の若い娘と2人きりの現実逃避とも言えるような生活を送ります。

最初は絵心を刺激されてモデルとして一緒に暮らしていたのですが、 やがて恋愛関係に陥るようになります。

兄夫婦はそれをどのように受け止めていたのか、不思議ですが、 この頃のバルテュスの作品は柔らかで穏やかな筆致で、 心身ともに充足して満ち足りた暮らしの中にいたと推察されます。

画風はゆったりと牧歌的であり、心の安定と充実感が滲み出ています。

その後、1961年、友人だった文化大臣アンドレ・マルローの任命で、 ローマのアカデミー・ド・フランスの館長になり、生活は大きく変わって行きます。

ところで、この美術館にはカノーヴァやマイヨール、ジャン・アルプなどの 彫刻作品もあるのですが、カンティーニ自身の作品は1点もないのでした。



(添付4:ドラン作「カシスの松林」、添付5:バルテュス作「ランプのある静物」 および 添付6:バルテュス作「泳ぐ人」 は著作権上の理由により割愛しました。
 長野さんから直接メール配信を希望される方は、トップページ右上の「メール配信登録」をご利用下さい。管理人)