ブーダンの薫陶を受け、生涯その教えを守って戸外で描き続けたクロード・モネ。 印象派の名前の由来となった、 モネの「印象、日の出」は43回のマルロー美術館の近くで描かれたのです。
そのモネの総作品目録の冒頭を飾る絵、 つまり彼が描いた最初の油彩画が何処にあるかご存知ですか?
日本にあるのです。 モネが17歳の時に描いた「ルエルの眺め」。
北浦和駅の西口前にある北浦和公園内の「埼玉県立近代美術館」。
黒川記章の設計で1982年に完成した鉄筋コンクリート造り、3階建てのモダンなビルです。
この1階の常設展コーナーで、 モネの「ジヴェルニーの積み藁、夕日」と並んでいます。 尤も、夕日の方は自前ですが、 ルエルの方は丸沼芸術の森所蔵で、登録美術品として展示されています。
モネは少年の頃から絵が得意でした。 教師や住んでいたル・アーブルの著名人たちを描いたカリカチュアが評判を呼び、 町の画廊で現在の日本円にして1万円ほどで売れ、 子供にしてはよい小遣い稼ぎをしていました。
そのカリカチュアに目を留めたブーダンが、モネを郊外での制作に連れ出し、 明るい光の下、刻々と変化する風景を描かせたのです。 その頃ブーダンはル・アーブルに移り住んでいました。
ルエルはル・アーブル北東を流れる川の名前ですが、 この絵は上半分を明るい青空と白い雲が占め、 「空の画家」と言われたブーダンの影響が感じられます。
しかし画面は「光の画家」モネの本領を早くも見せ、初夏の陽光に満ちています。 後年描くことになるポプラ並木や、川面に写るその並木も見えます。 木々や草花の一葉一葉も手抜き無く描き込まれ、初々しく清純な絵です。
モネは信念の人で、第1回印象派展に参加したセザンヌやドガ、ルノワールなどは やがて印象派から離れ、独自の道に進みますが、 モネは生涯ひたすら瞬間の光のもたらす効果を追求し続けました。
一時ヨーロッパを席巻したジャポニスムにも強く捉われ、 日本の着物を着た妻のカミーユを描いた「ラ・ジャポネーズ」を 第2回印象派展に出品したりしていますが、 その日本好きは生涯変わらず、晩年は人嫌いで滅多に来客には会わなかった彼が、 日本人客だけには会ったといいます。
そんな彼の最初の作品が日本にあるというのも何かの因縁でしょうか。
埼玉県立近代美術館には他にも、ドラクロア、ピサロ、ルノワール、ドニ、ルオー、 ドラン、レジェ、ピカソ、ユトリロ、パスキン、シャガール、キスリング、 デルヴォーや藤田嗣治、田中保、岸田劉生、伊東深水、橋本雅邦、速水御舟、 鏑木清方、佐伯祐三、古賀春江、瑛久、熊谷守一、草間彌生等があり、 美術館内と公園にはロダン、マイヨール、ブールデル、デスピオ、アルプ、 マンズー、エミリオ・グレコ、フェルナンド・ボテロ等の彫刻も 多数展示されています。
総合的にみて日本ではトップクラスに入る美術館です。
2階では意欲的な企画展が開かれ、地下1階は一般展示室になっています。
新宿から埼京線か湘南新宿ラインで行くと、 赤羽乗換えで、30分足らずで北浦和駅に着きます。