ナンシー美術館から北に200mも行くと「ロレーヌ歴史博物館」があります。
元はロレーヌ公の宮殿で、中庭を挟んだ2つの建物と少し離れた場所にある1つの教会から構成されています。
先ず愛嬌のあるスフィンクス彫刻の置かれた中庭を抜けて平屋の建物に入ります。ここには考古学的発掘物が陳列されています。
本館1階には教会にあったものらしい宗教的彫刻類、2階に絵画、版画の展示。
その中の1室にジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「蚤取り女」が1点だけ飾られていました。
彼は1915年、当時のバロック絵画の権威、へルマン・フォスによって見出され、17世紀初めの頃はまだ美術後進国と思われていたフランスにも、オランダのレンブラント、スペインのべラスケスに比肩し得るような巨匠が存在した事が明らかになった画家です。
1593年、ヴィック・シュル・セイユというロレーヌ公国内の寒村の生まれで、程なくフランスに吸収されます。ドイツ国境とも近く、覇権は2国間で揺れ動き、そのため戦禍に見舞われる事も多く、彼の作品も多くは残っていません。
「蚤取り女」はラ・トゥールの他の作品とは全く関係ない異色の作品です。共通点は1本の蝋燭の光を光源とする夜の作品という事だけ。宗教的意味合いもなければ隠喩もあるとは思えません。
ただ腹の大きい、若くもなくかといって歳をとっているわけでもない半裸の女性が蚤を取っているというだけの絵なのですから。
しかしロウソクの置かれた椅子に張られたなめし革の赤の美しさ、ラ・トゥール独特の明暗表現、漂う静寂は、彼本来の魅力を十二分に湛えています。
その手前の大きな部屋にはラ・トゥールの工房作品や追随者の作品、帰属作品が計5点ありました。
3階には陶製の大きな調度品や古時計が陳列してあります。
外に出て50mほど先の教会内博物館へ。1階は企画展用。そこを抜けると教会。バラ窓が全てこの教会の持ち主だったと思われる家の紋章になっています。こんなステンドグラスは初めて観ました。
またここにはこの家の代々の墓と思しき彫刻が幾つか陳列されています。1体、戦闘衣装を着けた棺墓が面白い。
2,3階は民族遺物の展示。18-19世紀のロレーヌ地方の伝統的な芸術作品を展示しています。
中に1点1979年作というナンシー近くのルペという村に住む、いかにも好人物そうな老婆の笑いかけるローカルな絵画が、妙に心に残りました。
(添付10:ジャイルス・ファーブル作「刺繍帽を被ったルペの老女」は著作権上の理由により割愛しました。
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