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美術館訪問記 - 442 ルーヴル・ランス美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:美術館までの無料バス

添付2:ルーヴル・ランス美術館

添付3:ルーベンス作
「自画像」 ルーベンス・ハウス蔵

添付4:ルーヴル・ランス美術館内

添付5:紀元前500年頃ダリウス1世の王宮装飾品

添付6:ルーヴル・ランス美術館内

添付7:ラファエロ作
「バルダッサーレ・カスティリョーネの肖像」

添付8:ジョルジョ・ド・ラ・トゥール作
「悔恨するマグダラのマリア」

添付9:ミーノ・ダ・フィエゾーレ作
「聖母子」

添付10:ドラクロア作
「民衆を導く自由の女神0」

気付いてみると、フランスも2年以上遠ざかっています。 前から書こうと思っていた「ルーヴル・ランス美術館」を採り上げましょう。 2012年12月開館のルーヴル美術館初の分館です。

私は2013年6月に訪館したのですが、パリの北駅からフランスの新幹線TGVで 1時間余りのランス(Lens)駅で降りると、美術館までの無料バスが待っています。

フランスには日本語で書くと同じランスという地名が2つあり、もう一つの方が 歴代のフランス国王が戴冠式を挙げたランス大聖堂やシャンパンの産地として 有名なランス(Reims)で、こちらの方が圧倒的に知名度は高いので、 切符を購入したりする場合に間違えないよう注意が必要です。

1960年まで使われた炭鉱跡地に建てられた 美術館は広い敷地に横長に広がっています。外装は全てガラス製ですが 光線と周りの具合で透明に見える所と金属色に反射して見える所とがあります。

設計は日本のSANAA(妹島和世、西沢立衛のグループ)。

この設計は国際的なコンペティションになり、一度は日本のオリンピック競技場 設計を勝ち取ったザハ・ハディッドとSANAAの決選投票で、評議員票は同数となり ルーヴル美術館長の最後の1票でSANAAが勝ち残ったのです。

満員だったバスの乗客のほぼ全員が年内は無料の常設展に向い、 入ってすぐ右手で開催されていた、9ユーロ必要な企画展、 ルーベンス展の入場者は私ともう一人だけでした。

流石ルーヴルの特別展だけあって世界中からルーベンスの傑作が集まっており、 総数170点。これだけのルーベンス作品を一度に観るのは初めてでした。 アントワープのルーベンス・ハウスにあるルーベンスの自画像も来ていました。

企画展の方はテーマ毎に細かく部屋を仕切っていましたが、 「時のギャラリー」と名付けられた120m以上の長さのある常設展の方は 広い一部屋のみで何の仕切りも柱もありません。

絵画や壁画、タイル画等を展示するための衝立が方々に置いてあり、 それらが所々視界を遮るのみで開放感のある空間が広がっています。 それらの衝立は左右の端に立てられた物以外は全て表裏両面が使われていました。

ルーヴル本体が国別の展示になっているのとは異なりこちらは時間で別けています。 そのため同時代の美術品が各地横断的に展示されていますが、 中近東までで、アジアやアメリカ、アフリカのものはありません。

展示品はそれ程多くはないので集中して観られます。 子供の団体も多く、ギリシャやエジプトの出土品に集まっていましたが、 絵画は比較的ゆっくりと観られました。

最も古い絵画はクリヴェッリのものであとはボッティチェッリ、ペルジーノ、 ラファエロ、グレコ、レンブラント等。ジョルジョ・ド・ラ・トゥールの 「悔恨するマグダラのマリア」も来ていたのには驚きました。

ミーノ・デ・ジョヴァンニ通称ミーノ・ダ・フィエゾーレの 光輪だけ金色に彩色された大理石の浮き彫りに妙に惹かれるものを感じました。

ギャラリーの最奥部に目玉のドラクロアの「民衆を導く自由の女神」もあり、 今後パリのルーヴルを訪れる人は、他館への特別展の貸し出し品以外にも ここに常時貸し出されている名品を惜しむ事になるでしょう。

この絵は2013年2月7日、来館者の女性が油性ペンで「AE911」と 落書きをしてしまったのだとか。幸い文字はニスの層に書かれていたため 絵の具の層には影響がなく、すぐに修復作業を行ったため作品は無事でした。

逮捕されたこの女性には、修復代として1255.8ユーロ、道徳的懲罰として 5000ユーロの罰金に加え、2年間の美術館入場禁止が課せられました。

この広い「時のギャラリー」を抜けると、 日本語で「ガラス館」を意味するパヴィヨン・ド・ヴェール。

壁一面がガラス張りになっており、庭園を一望できるこの展示スペースは 面積も狭く、親密感があります。開催中の展示のテーマは「時の作品」。

昼と夜、太陰月、巡り来る季節など、天文学的に感じとれる周期的な時間、 また生き物や物の寿命によって感じることのできる直線的な時間、 これら2種類の「時」の概念を、美術を介して読み解いていくというものだそうです。

展示品はルーヴルのコレクションだけでなく、 ランス近隣の美術館所蔵の作品も含まれていました。

続いて円形の小部屋が3部屋あり、「時のギャラリー」は一作家一作品のみの 展示ですが、この部屋には「時のギャラリー」にも出品されていた 画家の作品もあり、アルチンボルドの作品は2点並んで展示されていました。

通ってきた部屋をもう一度通って入口へ戻ります。

帰りはこの美術館とランス駅を繫ぐために新設された専用歩道橋を歩きました。 1.5m幅程の高台の尾根を抜ける気持のよい小径で、両側には木が繁り、 道路脇にはパンジーの赤い花が咲き乱れていました。歩いても15分程。

この新道のために街の通りを跨ぐ風情のある橋2つも新設されていました。 嘗ての炭鉱町ランスの再生に賭ける町とフランス政府の意気込みが伝わって来ます。