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美術館訪問記 - 440 広島県立美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:広島県立美術館外観 写真:Creative Commons

添付2:広島県立美術館内部

添付6:アレクサンダー・カーノルト作
「静物」

添付7:靉光作
「帽子をかむる自画像」

添付8:南薫造作
「座せる女」

前回のひろしま美術館から800m程東に「広島県立美術館」があります。

ひろしま美術館より10年早い1968年、中国地方初の公立美術館として開館。 現在の建物は旧美術館と隣にあった旧広島県立図書館の跡地に拡幅して 1996年10月新築再開館したもの。

3階建ての立派な建物で地階から3階までかなりの部分が吹き抜けになっています。

地階は県民ギャラリーと講堂、駐車場、1階は受付と売店、図書室、 2階は常設展、3階は企画展に使用されていました。

ここは作品毎に撮影可と撮影禁止のマークが付いていて撮影可の方が多い。 最近は日本でも撮影可の美術館が増えて来ましたが、 まだまだ撮影不可の美術館の方が多く、 海外観光客増加の折から早く国際レベルに追い着いて欲しいものです。

この美術館の白眉はダリの「ヴィーナスの夢」でしょうか。

244 x 488cmの大作で、1939年のニューヨーク万国博覧会において, 彼が手掛けたパビリオン「ヴィーナスの夢」内部に展示するために制作されました。

一目、ダリの出世作となった1931年作の「記憶の固執」の2番煎じで、 柔らかい時計,群がる蟻というダリの世界を特徴付けるモチーフに 他の専売特許、燃えるキリンと引き出しの付いた人体を付け合わせた作品。

ダリの作品には食べ物やその連想物がしばしば登場しますが、柔らかい時計は その日の夕食で食べた溶けるカマンベールチーズから思いついて 硬い時計を柔らかくしたらシュルレアリスム的発想になると閃いたのだとか。

パビリオンでは,本作の傍に,長さ10メートルほどにもなる赤いサテン生地の ベッドを設置し,その上にヴィーナスに扮した女性を横たわらせたといいます。

シュルレアリスムは1924年、詩人アンドレ・ブルトンの「シュルレアリスム宣言」 によって始まったとされています。

彼はシュルレアリスムという言葉を創り、その定義を明確化しました。 シュルレアリスム(超現実主義)とは「今まで人間が作ってきた制約を離れて、 思考の裏側にある無意識の世界を表現する事」なのです。

ダリは23歳でパリに出、ブルトンや詩人のポール・エリュアール等 シュルレアリスムの中心人物達と交流を持ち、 2年後には正式にシュルレアリスト・グループに参加します。

エリュアールの妻だった10歳年上のガラと恋に堕ち、結婚する事になります。 生涯を通じてダリのミューズ(美の女神)だったガラのマネージメントもあり、 天才と自称して憚らず、数々の奇行や逸話を残していますが、 根は繊細で気配りのある常識人だったというのが親しい人々の評価でした。

シュルレアリスムの旗手、ルネ・マグリットの「人間嫌いたち」もあります。 地平線まで見通せる大地と薄暗い雲が広がる大空の間,本来は属さない野外に 大小さまざまに林立するカーテンは不可思議な世界を現出させています。

第374回で詳述したアレクサンダー・カーノルトの「静物」も出色でした。

カーノルトの作品は日本ではここ以外目にしたことはありませんが、 この絵は彼の作品中では珍しく、超リアリズムというべき作品で、 カーテンの裏に何か潜んでいるような不気味さがあるものの、静謐な詩情漂う名品。

県立美術館らしく、広島県出身の画家が数多く展示されています。 その中から靉光の「帽子をかむる自画像」と 南薫造の「座せる女」を添付しておきます。

(添付3:ダリ作「ヴィーナスの夢」、添付4:ダリ作「記憶の固執」ニューヨーク近代美術館蔵 および 添付5:ルネ・マグリット作「人間嫌いたち」 は著作権上の理由により割愛しました。
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