ヴェローナ・シリーズの最後に、現存作品数の数少ないピサネッロの フレスコ画が残る「サン・フェルモ・マッジョーレ教会」を採り上げましょう。
ここは言い伝えでは304年にこの場所で殉教した聖フェルモと聖ルスティクスを 祀るために5-6世紀に設立されたというのですが、 実際は最初の教会跡は8世紀とみられます。
1065年から1143年にかけてベネディクト会が当初2つあった教会を統合して 下部の教会は聖遺物を保管し、 上部教会で教会行事を行うようにロマネスク様式で再建。
同時にベルタワーを建設し、こちらは13世紀に入って完成。 1261年、ベネディクト会からフランシスコ会へ代わり、 1350年までかけて上部教会を改造。 現在のゴシック様式で広い単身廊とし、アプスも付け加えられました。
その後も数世紀に渡って礼拝堂や祭壇、記念碑などが加わっていきました。
1807年フランシスコ会は強制退去となり、 1946年から下部教会も礼拝に使用されて現在に至っています。 こういう2教会統合型の教会というのも珍しい。
上部教会のファサードには何層もの深い隅切りの付いた ロマネスク様式の広い扉口が開いています。
内部は採光の関係で、写真では真っ黒にしか見えない天井は三山型の木製です。 ユニークなのはこの木製天井の碁盤の目状に並んだ 四角い窪み一つ一つに、全部で416人の聖人の顔が描かれている事。
肉眼ではほとんど何も見えないので、 横の壁にそれらの近接写真が張り出されていました。
そのタイトルが面白い。 「木製天井の416人の聖人達:この町で疑いなく最大の1300年代美術館」。
ファサードの裏にフレスコ画があり、トゥローネ・ディ・マクシオ作とされる ロンギヌスが槍でキリストを刺している「磔刑図」がありました。
14世紀後半の作で,ジョット派の影響が感じられます。 トゥローネはヴェローナに数点を残したのみの画家です。
教会の入口直ぐ左手に、ヴェローナの裕福な商人だった ニコロ・ブレンツォーニの霊廟があります。
霊廟は、1426年フィレンツェの彫刻家ナンニ・ディ・バルトロの手になる 「キリストの復活」の彫刻で装飾されており、その彫刻を包むように 作られた天蓋の上部には、預言者イザヤの像が飾られています。
天蓋の左右には、左側に大天使ガブリエル、右側に聖母マリアが描かれた 「受胎告知が」あり、天蓋上部の左右には、預言者イザヤ像を間に挟んで 左側に大天使ラファエル、右側に大天使ミカエルが、 全てピサネッロによって、描かれているのです。
このフレスコ画には"PISANVS PINSIT"というピサネッロの現存する最初の署名が 記されています。
ただ残念ながら剥落もあり、色彩も薄れていて完全とは言えませんが、 甘美さと冷たさが共存する流麗なピサネッロの特徴は垣間見えるのでした。
他の礼拝堂にはリベラ―レ・ダ・ヴェローナの 「聖アウグスティヌスと聖ニコラスの間に立つ聖アントニウス」、 フランチェスコ・カロートの「聖母子と聖人達」などがありました。
下部教会のクワイヤには14世紀作の木製の磔刑像がありました。
ここには12-14世紀のフレスコ画が残っており、 中でも12世紀作の「キリストの洗礼」は、この時期としては貴重な作例で 川の流れの描写が面白い。
教会を出て駐車場に歩きながら振り返ると、サン・フェルモ・マッジョーレ教会の 後陣が覆いかぶさるように立ちはだかり、継ぎはぎの修復跡も含め、 永年維持されて来た歴史の重みと、何やら原始の力強さのようなものを感じました。