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美術館訪問記 - 430 カステルヴェッキオ市立美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ジョヴァンニ・フランチェスコ・カロート作
「素描を持つ若者」

添付2:カステルヴェッキオ市立美術館とスカリジェロ橋
写真:Creative Commons

添付3:ヤーコポ・ベッリーニ作
「聖ヒエロニムス」

添付4:ジョヴァンニ・ベッリーニ作
「聖母子」

添付5:マンテーニャ作
「聖家族」

添付6:リベラーレ・ダ・ヴェローナ作
「キリスト生誕」

添付7:フランチェスコ・ボンシニョーリ作
「聖母子と聖マルゲリータ」

添付8:ピサネッロ作
「鶉の聖母」

添付9:作者不詳「カングランデ1世像」

添付10:カステルヴェッキオ市立美術館中庭

不思議というよりは、ルネサンス時代にこんな現代的な図柄があったのかと 意表を突かれた絵がありました。

それがジョヴァンニ・フランチェスコ・カロート作「素描を持つ若者」。

赤毛の少年が自分で描いた、いたずら描きを観る者の方に誇示しているのですが、 1480年頃ヴェローナで生まれ、ミラノでレオナルド・ダ・ヴィンチの影響下で 修業した画家の、現代に通じる自由な精神が吐露されているようで新鮮でした。

この作品があるのがヴェローナの「カステルヴェッキオ市立美術館」。

ヴェローナはミラノとヴェネツィアの中間付近に位置する古都で 中心部には古代ローマ時代の円形競技場跡があり、中世の町並みがよく残っており、 シェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」の舞台としても知られています。

カステルヴェッキオとはイタリア語で古城のことで、その名の通り1376年完成の 古城で、スカリジェロ橋がアディジェ川を跨いで対岸と繋がっています。

城門を潜って広い中庭を横切り、3階建ての城内に入ります。

1階には13世紀のフレスコ画から展示されており、ヴェネツィア派の祖とされ、 ジェンティーレとジョヴァンニの2大画家を息子に持つヤーコポ・ベッリーニの 「聖ヒエロニムス」と「磔刑図」の2点がありました。

彼の現存する作品は19点しかなく、ここの2点は貴重です。

ジョヴァンニ・ベッリーニの「聖母子」や、ジョヴァンニの姉と結婚して ジョヴァンニより1歳年下ながら彼の義理の兄となるアンドレア・マンテーニャの 「聖家族」もありました。

1445年生まれで主にヴェローナで活躍し、マンテーニャとヤーコポ・ベッリーニの 影響が強い、リベラーレ・ダ・ヴェローナの「キリスト生誕」がありました。

キリストよりも350年も後に生まれた聖ヒエロニムスが同席しているというのは 奇異に思われるかもしれませんが、時代の異なる聖人たちが聖母子と共存する 「聖会話」図同様、恐らく注文主の守護聖人である、聖人が宗教絵画に 時代を問わず登場する図像は少なくありません。

リベラーレは弟子を多く育てており、「芸術家列伝」中でヴァザーリは彼を ヴェローナ随一の画家としています。

その弟子の一人であるフランチェスコ・ボンシニョーリの 「聖母子と聖マルゲリータ」がありました。

ヴェローナの生まれで、リベラーレの下で修業後、27歳でマントヴァへ行き、 マンテーニャの強い影響を受けています。 この作品も、一見マンテーニャの作かと見間違えた程よく似ています。

ピサネッロの「鶉の聖母」がありました。 幼子キリストの頭と胴体の関係が不自然ながら、保存と出来のよい絵です。

聖母マリアの憂いと流麗な甘美性を帯びた表情や、題名になっている足元の鶉、 背後の鳥や木々の描写など、観る者を惹きつける独特の魅力があります。

外階段を上っている途中に印象的な彫像が置かれていました。 無名彫刻家の1330年から1350年頃の作という1329年死去した ヴェローナの領主だった「カングランデ1世像」です。

ここは城壁の上を歩けるようになっており、城の内部やヴェローナの街並みを 見渡すことができるのでした。

私が最後にヴェローナを訪れたのは2014年5月でしたが、 2015年11月19日木曜日の夕方、閉館30分前(最終入場18:45、閉館19:30)頃、 三人の覆面の男が美術館に乱入。ここで採り上げた絵画作品全てを含む17点を 盗み去るという事件が起きました。

観客もほぼいない、美術館職員もほぼいない、しかし開館中であるので 夜間警備システムは稼働していない、そういう時間帯での犯行でした。

2016年3月15日、警察当局は当日の警備員を含む12人の逮捕を発表。

5月6日にはウクライナから隣国のモルドヴァ共和国に持ち込まれようとしていた 盗難作品全てを発見。現在では無事元に戻されています。