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美術館訪問記 - 428 ヴェッキオ宮殿

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:作者不詳
「キリスト生誕」15世紀末

添付2:上図右上拡大図

添付3:上図左上拡大図

添付4:ヴェッキオ宮殿

添付5:作者不詳
「キリスト生誕」のタグ

添付6:1500年代の間(5百人広間)

添付7:ミケランジェロ作
「勝利」

添付8:ブロンズィーノ作
「紅海を渡る民人」

添付9:ピエトロ・ロレンツェッティ作
「聖母子」

添付10:ピエロ・ディ・コジモ作
「キリストの受難」

前回6本指のキリストの絵画を紹介しましたが、私がこれまで観て来た絵画の中で 最も不思議に思ったのが、いわゆる「UFOのマドンナ」。

添付写真を見て下さい。一見「キリスト生誕」のトンド。中央に大きく配された 聖母マリア(イタリア語ではマドンナ)が膝元の幼児キリストを拝み、 幼子洗礼者ヨハネがキリストを支えています。

ところが画面、マリアの顔の右手に注目すると、空中に何やら浮遊する物体が。

添付拡大図が鮮明に撮れなかったのでよく判らないかもしれないのですが、 その物体から黄色い線状光線が発せられています。 下では人が一人、おでこに手をかざしながら犬と一緒にその物体を見上げています。

これはUFO(未確認飛行物体)ではないのか?

見上げる人の右下には異常に小さく描かれたマリアの夫ヨセフの姿もあります。

しかもマリアの顔の左手には、光り輝く物体から3体の生物らしきものが 浮遊しつつこちらに向かって来ています。 ひょっとして「東方三博士の礼拝」は宇宙人の3人だったのか?

この絵があるのがイタリア、フィレンツェにある「ヴェッキオ宮殿」。

フィレンツェの街の中心、シニョーリア広場に面した3層の石造建物で 14世紀の始めにフィレンツェ共和国政庁舎として建築され、塔の高さは94m。 現在は一部が市庁舎として使用され、大部分が美術館として一般開放されています。

その美術館内に何気なくこの絵が展示されているのです。 観光客は特に気にする風もなく通り過ぎて行きます。横に置かれたタグには ミラートンドの親方作「キリスト生誕」15世紀末、板絵 と書かれているだけ。

つまり作者不詳ですが15世紀に描かれた板絵であるのは間違いないという事です。

サンフランシスコの6本指の絵も何の注釈もなく壁に掛かっていました。美術館の 係員も、毎日のように通って来ていたという美術教師も気付いていなかった6本指。 重大な事実が目の前にあっても、人はなかなか気付かないようです。

もっとも私が最後に行ってから、どちらの美術館も8年以上経っているので 今はどうなっているのか知りませんが。

この絵は、イタリアで作品を修復後、アメリカでも研究・分析がされた結果、 間違いなく15世紀末に描かれたオリジナルであり、 後世になって手が加えられたものではないと結論づけられています。

不思議な絵があるものです。

この宮殿の入口前には、あのミケランジェロ作の「ダビデ」が佇立しています。 現在本物はアカデミア美術館にあり、1910年からここにあるのはレプリカですが。

宮殿内には多くの部屋や広間があり、それぞれ美術品で飾られていますが、 そのうちの幾つかを紹介しましょう。

最も広い2階の1500年代の間(5百人広間)は、昔のフィレンツェ共和国の会議場で、 ヴァザーリ派の絵画で飾られています。 宮殿では至る所でヴァザーリの作品を見かけます。

この広間には、堂々たる体格の青年が老人を組み敷いている、ヴァザーリの師匠、 ミケランジェロの彫刻「勝利」も置かれています。

宮殿内には、16世紀半ばフィレンツェを支配し、ウフィツィ美術館を建設した コジモ・ディ・メディチ1世の妻だったエレオノーラ・ディ・トレドの私室もあり、 その隣には彼女のための礼拝堂が設えられており、壁や天井がブロンズィーノの 壁画で埋まっています。

中でも、彼の代表作ともいえる「紅海を渡る民人」の色彩が素晴らしい。 ユダヤの人々が追撃するエジプト王から逃れるため海水の引いた紅海を 渡り終えた後、エジプト軍が渡ろうとした時には再び海水で満ちたという モーゼの奇蹟を描いた絵です。一部剥落があるのが残念ですが。

第64回で触れたピエトロ・ロレンツェッティの「聖母子」が飾られている 部屋もありました。14世紀前半の作とは思えぬ、聖母マリアと幼子キリストに 神ならぬ人間としての愛おしさが感じられる名画です。

次の部屋にはピエロ・ディ・コジモの「キリストの受難」がありましたが、 1枚の板絵に「受難」の様々な場面を描きこんだ面白い絵で、 中心に据えた奇怪な建物が、当時では考えられない金属的で鋭角的な姿をしており いかにも奇を好んだコジモらしい。