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美術館訪問記 - 425 ハーバート美術博物館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ジョン・コリア作「ゴダイヴァ夫人」

添付2:ハーバート美術博物館外観 写真:Creative Commons

添付3:ハーバート美術博物館通路 写真:Creative Commons

添付4:エドウィン・ランドシーア作
「ゴダイヴァ夫人の祈り」

添付5:エドウィン・ランドシーア作
「救出成功」
英国王室蔵

添付6:エドウィン・ランドシーア作
「ライオン」写真:Creative Commons

添付7:ルカ・ジョルダーノ作
「バッカスとアリアドネ」

添付8:トーマス・ローレンス作
「ジョージ3世の肖像」

前回ジョン・コリアの説明を書きながら、彼の傑作を思い出していました。

それはイギリス、コヴェントリーの「ハーバート美術博物館」で観た 「ゴダイヴァ夫人」。うら若い裸女が白馬に跨り人気のない街中を進む名画です。

ゴダイヴァ夫人は11世紀イングランドのコヴェントリーを治めていた ゴダイヴァ伯爵の夫人で実在の人物。本人も夫の死後伯爵として跡を継いでいます。

今に残る伝説では、夫のゴダイヴァ伯爵が領民に重税を課し、 それを見かねたゴダイヴァ夫人が夫に税の軽減を頼みこみます。

何度も懇願する夫人に対し、夫の伯爵は「おまえが裸で町の市場を歩き、 端から端まで渡ったならば、その願いを叶えてやろう」とつれない。

彼女は意を決して、夫の言葉に従い、領民もその温かい心を汲み取り、 家々の窓を固く閉ざし、誰も覗き見ることなく彼女は無事夫の言う条件を果たし、 領民は重税から解放されたとか。

ちなみに、そのとき唯一その裸体を盗み見たトムという名の男がいて、 こっそり覗き見をする人のことを、英語でPeeping Tom(覗き見するトム)と 呼ぶようになった語源とされています。

ベルギーの著名なチョコレート・メーカー「ゴディバ」の名称は ゴダイヴァ夫人の愛情深さと勇気に感銘を受けた創業者が、 その精神を製品に込めるべく、彼女の名前を社名にしたのだとか。 発音は若干違いますがアルファベットの綴りはGodivaで同じです。

ハーバート美術博物館は、半径500m余りの環状線に取り囲まれた コヴェントリー旧市街の中心にコヴェントリー大聖堂と向き合っています。

1930年代の創館ですが、2008年の改修で、ガラス天井に覆われたユニークな通路が 前面に張り出し、美術博物館らしからぬモダンな外観を形作っています。

入ると直ぐ右手に小部屋があり、そこが1室そっくりゴダイヴァ伝説に捧げられて いました。ゴダイヴァ夫人を描いた絵が大小10点程展示されています。

中では入口直ぐにあるジョン・コリア作が一番大きく、絵としても素晴しい。 まるで濡れたように瑞々しく、一目見たら忘れられない姿です。

エドウィン・ランドシーア作の「ゴダイヴァ夫人の祈り」もありました。

動物画で著名な彼がゴダイヴァ夫人を描いていたとは知りませんでした。 この絵でも得意な動物が幾つか描き添えられていますが。

ランドシーアは1802年、ロンドンで彫刻家の家で生まれ、 幼くしてその芸術家としての才能を開花した神童でした。 13歳でロイヤル・アカデミーに初出品しています。

絵画の師に奨励されて、動物筋組織や骨格の構造を完全に理解するため、 解剖を実行した事も手伝ってか、動物を描かせたら右に出る者がいないと 言われるまでになり、ヴィクトリア女王からもペットや家族を描くよう依頼され、 1850年にはナイトに叙されてもいます。

1856年に描いた「救出成功」は水難救助をした白黒まだら模様の ニューファンドランド犬を描いたものですが、大変な評判となり、 版画や複製画が幾つも作成されて広く行き渡りました。

そのためか、この犬の種類はいつの間にか画家の名を採ってランドシーアと 呼ばれるようにさえなっています。

エドウィン・ランドシーアの作品は世界中の美術館でよく見かけます。

幼少時に父から仕込まれた彫刻家でもあった彼の最もよく知られている作品は 政治演説をする人が多いことでも有名な、ロンドンのトラファルガー広場にある ライオンの彫刻でしょう。

2階が美術館となっていました。ルカ・ジョルダーノの大作 「バッカスとアリアドネ」が目を惹きます。

フィレンツェのロッソ家の壁一面を飾っていたものですが、 コヴェントリーの市会議員だったエドワード・エリスが入手し、 市立美術館建設の核になればと寄贈したものです。 傍にあった解説によると彼はこれをギャンブルでまきあげたという説があるとの事。

神話によると、クレタの王女アリアドネは、ミノタウロスの犠牲としてクレタに 連れて来られたアテナイの王子テセウスに恋をします。

アリアドネはテセウスの怪物退治を助け、ともにクレタを脱出しますが、 テセウスはアリアドネを見捨て、ナクソス島に置き去りにしてしまうのです。

アリアドネは嘆きますがが、2頭の豹が牽く戦車に乗ったバッカスが現れて、 彼女を妻とし、アリアドネの宝冠を取って空に投げるとそれが冠座になったとか。

第216回で詳述したトーマス・ローレンスの肖像画も1点ありました。