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美術館訪問記 - 413 国立カポディモンテ美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:国立カポディモンテ美術館

添付2:ラファエロ作
「アレッサンドロ・ファルネーゼ枢機卿の肖像」1509-11年

添付3:ティツィアーノ作
「教皇パウルス3世の肖像」1543年

添付4:マザッチョ作
「磔刑」

添付5:パルミジャニーノ作
「アンテア」

添付6:カラヴァッジョ作
「キリストの鞭打ち」

添付7:ピーテル・ブリューゲル作
「盲人の譬え」

添付8:グレコ作
「燃え木でロウソクを灯す少年」

添付9:マルチェッロ・ヴェヌスティ作
「最後の審判模写」

添付10:カポディモンテ宮殿の宴会用サロン

ナポリに来たらイタリア最大の美術館、 「国立カポディモンテ美術館」を外す訳にはいきません。

この美術館は駐車が難しいこともあり、最初にナポリへ行った時、道の狭いのと、 ナポリ人の運転の乱暴なのに恐慌を来たし、2回目以降は車はホテルに置いて 公共交通機関やタクシーを利用するようにしています。

前回のガッレリア・デイタリア美術館からタクシーを拾うと、 これが恐るべき運転で、狭い道路を猛スピードで突っ走り、 ちょっと空きがあると対向車線も平気で走ります。 狭い道を抜けやすいようにサイドミラーは両方共ついていません。

60歳近い運転手でしたので、ここまで生き延びているのだから事故もあるまいと 腹をくくって乗っていましたが、まるでジェットコースターに乗っているよう。 あっという間に着いたのですが、私が運転したら5倍は時間がかかったでしょう。

こういう車が頻繁に行き交っているのですから、 主要国中、ナポリ市内だけは車を運転しない方が無難です。

閑話休題。カポディモンテの丘の上に建つ王宮だった建物が、 今はファルネーゼ・コレクションを展示する美術館になっています。

4階建てで、1階はブックショップやレストラン。2,3,4階が展示室。 2階の入口からファルネーゼ・コレクションが始まります。

ファルネーゼ家はパルマ公なども輩出した北イタリアの名門貴族で、 スペイン・ブルボン家がオーストリア・ハプスブルク家からナポリを獲得した後、 ブルボン家出身の王カルロ7世(在位:1735-1759年)が、 母エリザベッタ・ファルネーゼから受け継いだ美術品のコレクション。

ファルネーゼ家興隆の礎を作ったローマ教皇パウルス3世(在位:1534-1549年)が まだ枢機卿時代の肖像画が入口近くに展示されていました。 ラファエロ作「アレッサンドロ・ファルネーゼ枢機卿の肖像」。

1509年から11年にかけての作となっていましたから、ラファエロがローマに出た 直後から、バチカン宮殿の署名の間の壁画を描いていた頃です。

嫌がるミケランジェロに強要して「最後の審判」を描かせたり、 ドイツではルターの宗教改革を弾圧したり、 イングランドではヘンリー8世を破門してカトリックと英国国教会の分裂を 決定的にしたりした、こわもての教皇になるようにはみえませんが。

ティツィアーノが活写した32-4年後のパウルス3世の姿もあります。

そのような名門貴族家が歴代に亘って収集したコレクションだけに、 錚々たる名画が勢揃いしています。

シモーネ・マルティーニ、マザッチョ、マゾリーノ、ベッリーニ、マンテーニャ、 ボッティチェッリ、ペルジーノ、ロット、パルミジャニーノ、ポントルモ、 ソドマ、アンドレア・デル・サルト、コッレッジョ、カラヴァッジョ等 イタリア絵画のオールド・マスターがズラリ。

特にマザッチョの作品は世界13ヶ所にしかありません。 ここにある「磔刑」は、ピサのカルミネ教会のために制作された多翼祭壇画の一部。

現在ロンドン、ナショナル・ギャラリーにある「玉座の聖母子と天使たち」が 中央で、この「磔刑」はその上部にあり、残りはベルリン美術館、ゲッティ美術館、 ピサ国立美術館に分散しています。

十字架の下でこちらに背を向けて両手を伸ばし慟哭するマグダラのマリア。 その劇的なポーズと赤い衣服の背中にかかる金髪も印象的です。

数少ないと言えば、ラファエロ同様37歳で夭折し、晩年は深く錬金術に傾倒し、 精神が危機的状況にあったとも伝えられるため、残された作品数も少ない、 パルミジャニーノ(1503-1540)が4点もありました。

添付の「アンテア」は、2010年、上野の国立西洋美術館で開催された 「カポディモンテ美術館展」にも来ていましたし、そのポスターにもなって 新聞雑誌にも採り上げられていましたから、ご覧になった方もおられるでしょう。

その時代からは想像も出来ないような独特な画風を確立したパルミジャニーノの 晩年の傑作で、黒貂の毛皮を肩にかけ豪華な衣装をまとった若い女性の優雅な肖像。

ただよく見ると、右肩から腕にかけて不自然に大きく、黒貂は牙を剥き出し、 その口から出た鎖を右手にかけ、左手の人差し指はネックレスにかけ、 顔に比べ異常に大きな両手、アンバランスな右耳と左耳、腰の周りの白いドレスの 模様は服の襞に関係なく平板に描かれており、表情も何やら不気味。

プロポーションを無視した不自然なポーズや人体表現、鮮やかな色彩と明暗と いった、マニエリスムの様式をよく表しているとも言えますが、 パルミジャニーノの不安定な精神状態を反映しているようにも見えます。

これにピーテル・ブリューゲル、グレコ、シモン・ヴーエ、リベーラ、ダイク、 ルカ・ジョルダーノ、ゴヤ等が加わるから、絵画鑑賞が好きな人は絶対見逃せない。

ピーテル・ブリューゲルの「盲人の譬え」は彼の晩年の傑作で、 聖書中のキリストの言葉「盲人が盲人の手引きをすれば、二人共穴に落ちよう」を 描いていますが、盲人の虚ろな眼窩が痛烈に揶揄しているのは、人間の愚行、 自分達の転ぶまで気づかぬ衆愚ではないでしょうか。

マニアックなところではマルチェッロ・ヴェヌスティによるミケランジェロ作の 「最後の審判」の模写があり、これが1550年頃のものなので、 後の教皇が命じて描き加えさせた褌の着けられる前の貴重な証拠になっています。

展示場には王族のアパートメントのサロンだった場所もあり、 その他にも、19世紀初頭、ナポリがナポレオン軍に支配されていたとき、 当時のナポリ王ミュラが蒐集させた、17-18世紀のナポリ絵画が多数あり、 工芸美術品、陶磁器、版画等の展示もあります。

中2階には2012年12月にオープンした19世紀美術展示室もあります。 ここは土曜日の14時からと日曜日しか開いていません。

当然ながらナポリ出身画家がほとんどですが、フランツ・フォン・レンバッハと アンセルム・フォイエルバッハの佳品が1点ずつありました。