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美術館訪問記 - 410 ヴァルマラーナ荘

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ヴァルマラーナ荘全景
写真:Creative Commons

添付2:屋根の上の彫刻

添付3:ヴァルマラーナ荘住居用中央広間

添付4:ジャンバッティスタ・ティエポロ作
「イーピゲネイアの犠牲」

添付5:ジャンバッティスタ・ティエポロ作
「カルタゴの浜辺でアイネイアスの前に現れたヴィーナス」

添付6:ジャンバッティスタ・ティエポロ作
「魔法の庭のアルミーダとリナルド」

添付7:ジャンドメニコ・ティエポロ作
「壁に描かれた階段」

添付8:ジャンドメニコ・ティエポロ作
「冬の外出」

添付9:ジャンドメニコ・ティエポロ作
「月の神へ果物を捧げる」

添付10:ヴァルマラーナ荘住居用裏の庭園より見た住居

前回のモンテ・ベリコ聖母マリア聖堂から真東に900m程の場所に 「ヴァルマラーナ荘」があります。

ヴィチェンツァの貴族ヴァルマラーナ家が、1669年に建てられた住居用の家と ゲストハウスの2棟からなる別荘を、1720年買い取り、 手を入れて住居としたもので、現在も居住中。

2棟の間と住居用の家の後ろは庭園となっています。住居用の家は四角い造りの パッラーディオ様式で、屋根の上には3体の彫刻が置かれていました。

1757年ティエポロと息子のドメニコ・ティエポロが招かれ、 2棟の部屋を彼等のフレスコ画で飾る事になります。

住居用の家はティエポロが主に描き、ゲストハウスはドメニコが主に描いています。 ティエポロが14面、ドメニコが15面、二人の共作が1面あるのです。

美術館でもそうはお目にかかれない、 ティエポロ親子の詩情とロマンティシズム漂う名画を30点も楽しめるとは。 しかもその全てが、壁一面か天井全部に描かれた大作揃いなのですから。

住居用の1階4部屋と中央広間にティエポロの描いた14作があります。

中でも一番有名なのが中央広間壁面に描かれた「イーピゲネイアの犠牲」。 この絵は幾多描かれた同主題画の中でも最高傑作と言われています。

これはギリシャ神話トロイア戦争中の話で、女神アルテミスの怒りを買い嵐のため 出航出来ないギリシャ軍は、怒りを解くため、ギリシャ方の王アガメムノンの娘 イーピゲネイアを 生贄として女神に捧げなければならなくなります。

オデュッセウスの入れ知恵で、アガメムノンはイーピゲネイアとアキレウスを 結婚させると、イーピゲネイアの母親をたばかり、二人を呼び出すのです。

喜びに胸を膨らませて父の元に向かったイーピゲネイアを待っていたのは、 兵団のためにわが身を犠牲にしろという恐ろしい父の言葉でした。

悲嘆に暮れ、並み居る勇者たちに娘の助命を願い出るイーピゲネイアの母親に対し、 イーピゲネイアは王女の務めとしてわが身を捨て国のために生贄となるのでした。

イーピゲネイアの気高い振る舞いに同情したアルテミスが怒りを和らげ、 最後の瞬間、彼女を雌鹿とすり替え自分の巫女として連れ去ったとも言われます。

「カルタゴの浜辺でアイネイアスの前に現れたヴィーナス」もトロイア戦争の話で、 トロイア王家のアイネイアスはヴィーナスと人間の子供で、トロイア戦争敗北後、 ヴィーナスの助けもあり、カルタゴ経由でイタリアへ逃げ、 ローマ建国の遠い祖先となる人物。

「魔法の庭のアルミーダとリナルド」は16世紀イタリアを代表する詩人 トルクァート・タッソが手がけた叙事詩からの話で、敵対する十字軍を混乱させた 魔女アルミーダが将軍リナルドによって退けられ、その復讐として魔法で 将軍リナルドを魔法の庭へ連れ込み誘惑する場面です。

住居用の壁画はこのように、ギリシャ神話や叙事詩からの主題で格調高いのですが、 ゲストハウスの方は、より現代的で、当時の日常生活を主題としています。

ヴァルマラーナ荘はヴィチェンツァ市街から1㎞とは離れていないのですが、 山野に囲まれ、庭も木立の間の通路が美しく、視野を遮るもののない高台にあり、 建物や庭からの眺めも素晴らしいのでした。