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美術館訪問記 - 402 20世紀美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:20世紀美術館正面

添付2:20世紀美術館内螺旋階段

添付3:クレー作
「森の形成」

添付4:ジョゼッペ・ペリッツァ・ダ・ヴォルペード作
「第四階級」

添付5:モディリアーニ作
「ポール・ギョームの肖像」

添付6:モランディ作
「マネキン人形のある静物」

添付8:ウンベルト・ボッチョーニ作
「空間における連続性の唯一の形態」

添付9:20世紀美術館最上階からの眺め

添付10:美術館の外部階段でのスナップショット

ミラノの中心、ドゥオーモ前広場に面したアレンガリオ宮殿内にあるのが 「20世紀美術館」。2010年12月の開館。

イタリア語の直訳名称は「900年代美術館」。 慣習的にイタリアでは西暦1000年までは世紀で呼びますが、それ以降は 年代で呼びます。つまり、500年代は6世紀、1500年代は500年代と呼ぶわけです。

その名の通り20世紀の作品を展示している美術館で、ミラノ市のブレラ美術館や 市立近代美術館から20世紀の美術品を移して来ており、市立近代美術館にあった マリーノ・マリーニのコレクションは全てこちらに移されています。

作品は400点以上所蔵されており、美術館そのものの造りや備品も斬新で芸術的。 最上階やカフェからの眺めも素晴らしく、作品以外にも楽しめる要素満載の美術館。

外見上は1階の高さが6mはある3階建てですが、内部は6階層になっています。 ドゥオーモ前広場側の部分は外見は矩体ですが、内部は一部、ニューヨークの グッゲンハイムのような螺旋体になっています。大きさは随分小さいですが。

27部屋ある展示室は1部屋だけがカンディンスキー、マティス、モンドリアン、 クレー、ピカソ、ブラック等の外国人画家用で、他は全てイタリア人芸術家用。

市立近代美術館の顔だったジョゼッペ・ペリッツァ・ダ・ヴォルペードの大作、 「第四階級」が第1室を占有していました。

1901年に描かれたこの作品は、20世紀の幕開けを告げ、 新たにこの美術館の顔として最適なものと考えられているのでしょう。

293 x 545cmという横長のキャンバスに、男性2人女性1人を先頭に、 溢れるばかりの労働者たちがこちらを凝視し力強く歩んで来るという構図です。

教会(第1階級)、貴族(第2階級)、ブルジョワ(第3階級)に虐げられてきた、 労働者(第4階級)の覚醒と蹶起を見事に描ききった迫力ある作品で、 イタリアのみならずヨーロッパに於ける急進派や社会主義者の シンボルとなったというのも肯けます。

ペリッツァは、名前にもなっているミラノとジェノヴァの中間辺りの町 ヴォルペードに生まれ、没した、点描的な分割描法主体の新印象派の画家です。

彼は1907年、妻と息子が死亡した後、自殺しています。

ブレラ美術館にあったモディリアーニの「ポール・ギョームの肖像」にも再会。

モランディの作品が9点ありましたが、見慣れた静物画以外に、 抽象画やキュビスムのような風景画、キリコの描いたような静物画等、 意表を突くものがあり、そのキリコの若い女性の肖像画や ローマ時代の剣闘士の群像という珍しいものもありました。

20世紀前半のミラノは未来派の拠点で、世界の美術の中心地の一つでした。

未来派とは、1909年、詩人のマリネッティを中心に結成され、 あらゆる破壊的な行動を讚美する非常に過激なものでした。

この運動は文学、美術、建築、音楽と広範な分野で展開され、1920年代からは、 イタリア・ファシズムと結び付き、戦争を「世の中を衛生的にする唯一の方法」 として賛美するようになります。

芸術の分野では、過去の具象美術の伝統の束縛から自由となって、 機械文明の持つダイナミズムとスピード感を称え、 力強い運動表現を、絵画、彫刻に取り入れようとしたのです。

未来派を代表するウンベルト・ボッチョーニのブロンズ像 「空間における連続性の唯一の形態」がありました。

この彫刻は私が子供の頃の教科書にも載っていましたし、 イタリアの20セント・ユーロ硬貨のデザインにもなっています。

ボッチョーニは画家で彫刻家。19点が展示されていました。

彼は1901年ローマで絵画の勉強をし、1906年にはパリに4カ月滞在して 印象派やポスト印象派絵画に触れ、その後ロシアやミュンヘンにも行き 研賛を積んで1907年にはミラノに移住します。 そこでマリネッティと会い、未来派に加担するのです。

彼はマルクス主義者のアナキストであり、第一次世界大戦で砲兵連隊に入隊し、 1916年、騎兵隊訓練中に落馬して馬に踏みつけられ、その翌日に33歳で死亡。

ここの最上階の広いガラス窓越しに見る大聖堂と ヴィットリオ・エマヌエーレ2世のガッレリアや宮殿の眺めもなかなかのもの。

建物や美術品、眺望を満喫して出ると、たまたま美術館の外部階段で 美しいモデルの写真撮影をしていました。

(添付7:キリコ作「秋(若い女性の肖像)」は著作権上の理由により割愛しました。
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