天使を描かせたら右に出る者がいない、ロレンツォ・ロットという画家がいます。
ロット(1480-1556)はヴェネツィアの生まれで、ヴェネツィア派らしい豊かな
色彩表現を見せてくれますが、定着性がなく、
ヴェネツィア、トレヴィーゾ、ローマ、マルケ地方、ベルガモなど各地を遍歴し、
その方々で祭壇画や肖像画を描いています。
イタリアの北の町、ベルガモには、ほとんどの教会にロットの祭壇画が 残っていますが、その最高傑作がベルガモの北にある町、ポンテラニカの 「サンティッシモ・ヴィンチェンツォ・エ・アレッサンドロ教会」にあります。
緑多き丘の中腹に建つ15世紀建立の教会。
見かけは何と言うことのない田舎の教会ですが、 入ると左側の礼拝堂にロレンツォ・ロットの多翼祭壇画があります。
特に左上の天使がピンクの衣を身に纏い、 右上のマリアと対の受胎告知を示す百合を左手に持ち、 右手を上に挙げ黒いバックに浮き出て何とも印象的です。
右上のマリアも両手を出して下に突き出し、拒絶とも見えるポーズ。 中央に聖杯を足元に置き、右手を胸に、左手を広げて下に向けたキリストを配す。
実に例のない受胎告知図です。
その下の三連画は、中央に洗礼者ヨハネ、左に聖ペテロ、右に聖パウロ、 各画の間を目映いばかりの黄金柱で分ける華麗な造り。
感嘆しながら見ていると、人の良さそうな髪の薄い60過ぎの 堂守りのような男性が寄ってきて照明をつけてくれました。
片言のイタリア語で話してみると、先祖は日本人という。 日本に行ったことはないが、非常な親近感を持っているようで、 我々が日本人と聞くと、実に熱心に教会内の一画一画、 一像一像を丁寧に説明してくれました。
とはいえ、早口のイタリア語で半分も理解はできませんでしたが。 (これは6年前の話で、1年間イタリア語会話に通った直後のことです。 今ではスッカリ忘れてしまいました。誤解なきよう。)
この教会は天井も美しく装飾されており、柱も全て大理石。 外観に似つかぬ素晴しい教会でした。
注:
聖ペテロ:本名シオン。聖人。歴史上の人物。BC1年頃-AD67年頃 キリストに従った12使徒の最年長。そのため、禿頭、もしくは白髭の 老人の姿で描かれる。キリストから天国の鍵を渡されたとされるので、 鍵を持って描かれる。ヴァチカンの聖ピエトロ寺院は聖ペテロを祀ったもの。 ローマで逆さ十字の磔刑にされ殉教。これを主題とした絵も多い。