美術館訪問記 -390 ルートヴィヒ美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ルートヴィヒ美術館外観

添付2:ルートヴィヒ美術館内部

添付7:マルク作
「牛」

ケルンにはもう一つ見逃せない美術館があります。それは「ルートヴィヒ美術館」。

ケルン大聖堂の直ぐ近く、ローマン・ジャーマン・ミュージアムの隣に建つ 4階建ての近代的ビルディングに納まっています。 ライン川も近く、最上階からはケルンの街と、反対側の川沿いが眺められます。

この美術館は、国際的にも重要な近現代芸術のコレクションを所蔵しています。 実業家として成功したルートヴィヒ夫妻がケルン市に寄贈した 現代アート作品350点余りを基に、1986年に開館されました。

内部もいかにも現代アート美術館らしいモダンな構造になっています。

新しく建てられた美術館では20-21世紀の現代アートの潮流を総観できます。 キュビスム、アヴァンギャルド、シュルレアリスム、バウハウス、ポップアート、 そして19-20世紀の写真、インスタレーション作品など。

2001年にルートヴィヒ夫妻から追加寄贈された774点のピカソの作品も合わせ、 現在では950点近いピカソのコレクションも魅力の一つです。 パリ、バルセロナのピカソ美術館に次ぐ世界第3位の収蔵数となっています。

訪れた日には油彩画が24点、エッチング99点、彫刻8点が展示されていました。

米国以外では最大のポップアート・コレクションも誇っていますが、 中でも目を惹くのはロイ・リキテンスタインの「M-Maybe」。

ポップアートは1950年代半ばのイギリスでアメリカ大衆文化の影響の下に誕生し、 1960年代にアメリカを中心に爆発的に世界に広まりました。

ポップというのは英語のポピュラーの短縮形で、大衆雑誌、広告、看板、漫画など、 卑俗な日常生活の中に溢れている物をそのまま借りて使用しています。

1950年代に盛んだった抽象絵画に対する反動として、具体的なイメージを 臆面もなく強調し、そのイメージを変形、拡大、分断して提示して見せたのです。

ロイ・リキテンスタインは1923年、ニューヨークの生まれ。 1940年、オハイオ州立大学美術学部に入学。卒業後、製図工、大学講師などを しながら生計を立てていましたが、1960年代初頭に彼の代名詞となっている、 漫画のコマを拡大したような作品を発表して一躍時代の寵児となります。

自分の子供にミッキーマウスの漫画を描いてあげた時に、芸術作品より漫画の方が 強烈なインパクトのある多様な表現が出来ることに気が付いたといいます。

彼の作品の特徴は、漫画のカットのような太い輪郭線で囲まれた平面に 原則、三原色のベタ塗り、影はドットの大小や密度で表現しています。

彼のコミックを油絵で描いた絵は、批評家からはけなされながらも、 画商のレオ・キャステリに才能を見出され、大衆から熱狂的に支持されていきます。

第293回で詳述したポップアートの旗手アンディ・ウォーホルも 漫画を題材として使うことを思いついてはいましたが、 リキテンスタインのように、機械のように正確にドットを描くことはしなかった。

画商のレオ・キャステリのところに2週間遅れで漫画作品を持って行った ウォーホルは、リキテンスタインの絵を見せられ、その完成度に打ちのめされ、 ドットのアイデアを思いつけなかった事を悔しがったそうです。

リキテンスタインもウォーホル同様、世界中の美術館でよくみかけます。

1994年に東京都現代美術館が開館時の目玉作品としてリキテンスタインの 「ヘア・リボンの少女」を6億円で購入しましたが、 その承認を求めた都議会で、「漫画に6億円払うのか」「税金の無駄使い」などと 批判されたのを記憶されている方もおられるでしょう。

現在の市場価値は80億円とも言われますが。

ルートヴィヒ美術館には他にもマティス、ドンゲン、クレー、ユトリロ、マルク、 ココシュカ、ノルデ、エルンスト、モディリアーニ、シャガール、マグリット、 デルボー、ダリ、マッケ、ニキ・ド・サンファルなど盛沢山。

(添付3:ピカソ作「両手を組む道化師」1923年、 添付4:ピカソ作「読書する女性の頭部」1953年、添付5:リキテンスタイン作「M-Maybe」, 添付6:リキテンスタイン作「ヘア・リボンの少女」東京都現代美術館蔵および添付8:ニキ・ド・サンファル作「黒いナナ」は著作権上の理由により割愛しました。
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