カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ・センターから400m足らずの場所に 「ポメルン州立博物館」があります。
2005年開館のこの州立博物館には、6つの建物と4つのテーマの野外施設があり、 絵画ギャラリーと1万2千年のポメルン地方の歴史を紹介する施設となっています。
ここは田舎町の小博物館と予想していたのですが、どうしてどうして、 3階建ての堂々たる建物で部屋数も多く、質も高いのでした。
受付の女性は40歳ぐらいでしたが、立派な髭が生えていて少なからず驚きました。 全く気にしていない様子でした。 口髭のある老年のドイツ人女性はたまに見かけますが、この年齢では珍しい。
カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの生まれ故郷とあってか、 彼の作品が7点もあり、アルベルト・フライブルクという画家が 1840年に描いたフリードリヒの肖像画もありました。
この年にフリードリヒは65歳で亡くなっているのですが、肖像画は壮年期の様で 鋭い眼差しで鑑賞者を食い入るように見詰めています。
どこかで観た絵だと思ったら、ベルリンの旧国立美術館所蔵の カロライン・バデュアが1810年に描いた肖像画のコピーでした。
フリードリヒの作品では「リーゼンゲビルゲのエルデナ修道院廃墟」がよかった。
エルデナ修道院廃墟はグライフスヴァルトの東3㎞足らずの場所にあり、 フリードリヒの幾つかの作品中に登場してきます。 一番有名なのはベルリンの旧国立美術館にある「樫の森の中の修道院」でしょうか。
冬枯れの樫の木の中にある廃墟という荒涼とした風景。手前に掘ったばかりらしい 墓穴が口を開け、幾人かの修道士たちがそちらに向かっています。 暗い地上とは裏腹に明るい空へ向かってねじくれた木々の先が伸びています。 悲愁感と希望。ここにも自然への畏敬の念が窺えます。
カール・グスタフ・カルスが同じエルデナ修道院廃墟を1820年に描いた 「月明かりの下の小屋とエルデナの遺跡」がありました。
カルスはゲーテの友人であり、一流の医師、物理学者、哲学者でありながら、 仕事の傍ら、フリードリヒの下で4年間学んだ画家でもありました。 そのためか、一見しただけではフリードリヒ作かと思わせるような絵も描きます。
カルスがフリードリヒの風景画を観た時の印象を書き残しています。 フリードリヒの絵画の本質を突いているので、少し長いですが引用しましょう。
「自然の風景の見事な統一性を眺めながら、人間は自己の卑小さに気付かされ、 あらゆるものが神の中にある事を感じて、いわば自己の個人的な存在を断念して この無限の中に自己を投げ出してしまう。このように自分自身を消滅させる事は、 自己を失う事ではなくて、逆にいっそう大きなものを得ることなのだ」
フランス・ハルスの肖像画が2点ありました。同じポメルン州内にある第280回で 紹介した、近くのシュヴェリーン美術館にも彼の作品が3点ありましたから、 誰かハルスの好きな収集家が州内にいたのかもしれません。
ゴッホの「アルルの通り」もありました。 南仏アルルの陽光の下、樹々も、家も、道も、燃え上がるかのようです。
他にはヤウレンスキーが13点、ノルデやフォイエルバッハ、マッケ、 マックス・スレーフォークト、マックス・ペヒシュタインなどがありました。