美術館訪問記-379 シュレースヴィヒ州立芸術文化博物館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ゴットルフ城

添付2:ゴットルフ城内シュレースヴィヒ州立芸術文化博物館の1室

添付3:クラーナハ作
「悲しみの人キリスト」

添付4:デューラー作
「悲しみの人キリスト」
カールスルーエ美術館蔵

添付5:アンゲリカ・カウフマン作
「ジュリア・レーベントロー伯爵夫人像」

添付6:ゴットルフ城内シュレースヴィヒ州立芸術文化博物館の1室

添付7:シュレースヴィヒ州立芸術文化博物館近代美術棟

添付8:ノルデ作
「花咲く庭 P」

添付9:エルンスト・バルラハ作
「歌う男」

添付10:バルラハ室からの近代美術棟中庭の眺め

前回のゼービュル・ノルデ美術館から南東へ90㎞足らずにヴァイキングが築いた町、 シュレースヴィヒがあり、ここに「州立芸術文化博物館」があります。

堀に囲まれた広い敷地内に建つゴットルフ城内にある博物館で、 ホルシュタイン=ゴットルフ家は、16世紀から18世紀にかけて北ドイツの シュレースヴィヒ=ホルシュタイン公国を支配した貴族の家系。

18世紀に3つの家系がスウェーデン、ロシア、北ドイツのオルデンブルクの 君主位をそれぞれ獲得し、スウェーデンでは19世紀初頭まで、 他の2国では20世紀に君主制が廃止されるまで続いた名門です。

ゴットルフ城は1161年から記述がある古い城ですが、現在の建物が完成したのは 19世紀になってから。不規則な形をした4つの翼棟が中庭を取り囲んでおり、 俯瞰すると大きなPのような形状をしています。

1945年から城内には州立芸術文化博物館と州立考古学博物館が入居しており、 堀の内の敷地内の城の東側に幾つか別棟が建てられ、 その内2棟は州立芸術文化博物館の分館として 近代美術と20世紀のデザイン、工芸品を展示しています。

城内では、絵画は18世紀までの作品が展示され、クラナッハ10点、 アンゲリカ・カウフマンとクラナッハ子が3点ずつ、モンパー、 ヤーコブ・ファン・ロイスダール、ネッチェル等の作品がありました。

ここはデンマーク国境からそう遠くないためか、展示品説明文は ドイツ語とデンマーク語が併記されています。

クラーナハの「悲しみの人キリスト」は13世紀にヨーロッパで描かれ始めた キリストの図像で、通常上半身裸で、5つの聖痕を見せながら全身から血を流し、 茨の冠を被り、受難の刑具を手に持つ姿で描かれます。

理性的に考えれば、キリストは十字架上で死んだのですから、このような姿で いる筈はなく、復活したキリストであれば、血を流してはいない筈です。

しかしこの図像はキリストの磔刑図の代替として、祈りの対象となり、 特に北ヨーロッパで流行しました。

アルブレヒト・デューラーも印象的な「悲しみの人キリスト」を残しています。

城内には大砲や甲冑などの武具、陶磁器などの展示会場、 天井や壁をフレスコ画で華麗に装飾された大広間などもありました。

ここにはマビューズの作品があるということだったので期待して来たのですが、 どこにも見当たりません。看視員に聞いても知らないと言います。 受付なら分かるかもしれないと言うので、受付に行ってみましたが、 そこにいた2人ともマビューズなど聞いたことがないといった風情。

ブックショップに置いてあったカタログ本によると、ある作品がマビューズと 別の画家の合作と見做されていたようで、今は追随者の作となっていました。

隣にある近代美術棟は、これだけでも十分独立した美術館になり得るほど広く、 内容も充実していました。

エミール・ノルデの油彩画4点、水彩画21点やキルヒナー、オットー・ミュラー、 マックス・ペヒシュタインなど、ブルュッケのメンバーの作品が多く、 ヤウレンスキーも4点ありました。

エルンスト・バルラハに広い1室が充てられ、彼の作品多数が展示されていました。

バルラハは1870年、ハンブルクの西10㎞程にあるヴェーデルの生まれで、 彫刻家、画家、劇作家。

トーマス・マンがドイツ演劇の重要な劇作家としてベルナルト・ブレヒトと、 バルラハを挙げている程、西欧では劇作家としても有名ですが、 日本ではドイツ表現主義の彫刻家として知られています。

彼の作品は、世界中どこの美術館でもよく見かけるので、彫刻にはあまり 目の行かない私でも、一目で彼の作と判る独特な個性を発揮しています。