美術館訪問記-360 国立スコットランド美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:レオナルド・ダ・ヴィンチ作
「糸車の聖母(バクルーの聖母)」

添付2:レオナルド・ダ・ヴィンチ作
「糸車の聖母(ランズダウンの聖母)」
個人蔵

添付3:フェルメール作
「マルタとマリアの家のキリスト」

添付4:フェルメール作
「聖女プラクセディス」
日本、国立西洋美術館寄託展示

添付5:国立スコットランド美術館

添付6:国立スコットランド美術館内部

添付7:ヘンリー・レイバーン作
「ロバート・スコット・モンクリーフ夫人」

添付8:ティツィアーノ作
「聖会話」

添付9:ロレンツォ・ロット作
「聖母子と聖者たち」

添付10:国立スコットランド美術館横の公園

前回のラサロ・ガルディアーノ美術館では6年後に再訪した時に レオナルド・ダ・ヴィンチ作品が他の人物の作品に表示が替わっていたのですが、 再訪したら前は無かったレオナルド・ダ・ヴィンチ作品があった美術館があります。

それはイギリス、スコットランドの首都にあたるエディンバラにある 「国立スコットランド美術館」。

問題の絵は「糸車の聖母」。この作品はスコットランド在住のバクルー公爵家が 所蔵し、国立スコットランド美術館に長期貸与されているもので、 別名「バクルーの聖母」とも呼ばれます。

2016年初、江戸東京博物館で開催された「レオナルド・ダ・ヴィンチ」 特別展に来ていたので記憶されている方もおられるでしょう。

レオナルド・ダ・ヴィンチ作と言われる「糸車の聖母」はもう1点あり、 こちらは19世紀にランズダウン侯爵家が所有していたことから 「ランズダウンの聖母」と呼ばれ、現在はニューヨーク在住の個人の所有物。

レオナルドが1501年頃に「糸車の聖母」らしき絵の制作を開始したとの記録があり、 レオナルドの弟子や後世の画家たちが描いた模写や、構成を借用した絵画作品が 40点近く現存している事からしても、レオナルドが「糸車の聖母」を描いたのは 間違いないと思われますが、この2つのどちらが真作なのかは結論が出ていません。

どちらか一つ、あるいは2作とも真作というのが現在の専門家の意見のようです。 国立スコットランド美術館は「バクルーの聖母」は真作と鑑定しています。

実は「バクルーの聖母」は2003年、バクルー公爵家の居城で美術館となっている ドラムランリグ城から二人組の男に盗まれたのですが、2007年発見され、 作品の検証、鑑定のため国立スコットランド美術館へ預けられ、 そのまま同館に2009年以降展示されています。

ですから2002年に初訪館した時にはなく、2010年再訪した時にはあったのでした。

初訪館した時の一番の目的はフェルメールの現在に残る最初の作品(1654-55年)、 「マルタとマリアの家のキリスト」を観ることでした。

この絵はまた、158.5cm x 141.5cmで、彼の最大の作品でもあります。

この絵を観ることで、彼の真作とされる32点、 疑問符のつくものを入れると37点全てを、現地の美術館で観るという、 20年がかりの一つの目的が達成できたのです。

この絵はフェルメールの他の作品とは全く異なる、唯一の物語画・宗教画で、 彼の最大の特徴である静謐な詩情は感じ難い。

他の作品の緻密な描写に比べると、流れるような大胆な筆遣いで、 最初期の作品ということを考慮しても、かなり違和感を覚えた記憶があります。

現在、フェルメール作とされる、第96回で触れた「聖女プラクセディス」が 日本の国立西洋美術館に寄託展示されています。この作品はフェルメールの 真作であれば、現存する彼の2番目の絵画で1655年作とされています。

この作品が日本で初展示された時に私の判断を求められた事がありましたが、 私は真作とも偽作とも判断できないと答えました。

この美術館訪問記は現在は広範囲な方々に読んで頂いていますが、 当初は囲碁仲間を相手に送っていました。

囲碁で言えば、プロの打ち碁の棋譜を見て、 それが武宮さんの打ち碁かどうかを聞くようなものです。

宇宙流と言われる武宮九段独特の大模様作戦の碁であれば、素人でも誰の打ち碁か 言い当てるのは難しくないでしょうが、修業中の院生時代の棋譜を見て、 それが彼の打ち碁か否かを当てるのはプロでも困難でしょう。

絵画も似たようなもので、フェルメールの修業中の、しかも他人の絵を 模写した絵画の帰属を判断するのは至難の業でしょう。

画家の本質を味わえるのは、その画家の特質が積年の修練を経て 滲み出て来るまでの時の経過を必要とするように思えます。

1859年開館の国立スコットランド美術館は、ヘンリー・レイバーンや アラン・ラムゼイなどのスコットランドの代表的な画家の作品は勿論、 欧米の著名画家の作品を新旧取り混ぜて網羅的に所有しています。

世界的に見ても超一流の美術館です。

特にターナーは38点、レイバーン18点、ラムゼイ、プッサン、ピカソ、 エルンストは9点ずつも展示されていました。

美術館横に広がる緑の芝生の公園に憩う人々の姿も心に残るものでした。