美術館訪問記-354 サンタ・マリア・デッラ・グラツィエ聖堂付属美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:フラ・アンジェリコ作「受胎告知」

添付2:ヤコポ・デル・セッライオ作
「受胎告知」

添付3:ヤコポ・デル・セッライオ作
「聖三位一体、聖母マリアと聖ヨハネ」
国立西洋美術館蔵

添付4:サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ聖堂

添付5:ジョヴァンニ・デッラ・ロッビア作
「聖母被昇天」

添付6:サン・ロレンツォ教会 右側は聖堂付属美術館

添付7:ジョヴァンニ・デル・ビオンド作
「聖母戴冠」

第334回から実に20回も脱線してしまったので、話の脈絡を忘られた方がおられて 当然なのですが、フラ・アンジェリコの「受胎告知」の話をしていたのでした。

フラ・アンジェリコの3つ目の「受胎告知」はフィレンツェの南東30㎞程の サン・ジョヴァンニ・ヴァルダルノという町の 「サンタ・マリア・デッラ・グラツィエ聖堂付属美術館」にあります。

聖堂に向かって左手にあり、階段を上った2階が入口。

幾つかの展示室を抜け突き当りを右に曲がると、左手の部屋に一つだけ目当ての 「受胎告知」がありました。

他の3つの受胎告知に比べると環境設定が曖昧で、マリアと大天使ガブリエルは 金をふんだんに使って完成していますが、背景は塗り終えていません。 ぼうようと白赤青の3色で模様のように描いているのみです。

それでも観ていると安らぎを感じ、暫し見とれていました。 マリアとガブリエルの気品溢れる姿と衣服の描写が何とも言えません。

左上にアダムとイヴの楽園追放がそれと判る程度に描かれています。

画面の上方、二つのアーチの間には円形の小画面があり、父なる神の姿が 描かれているのも他の3つとは異なります。

他の絵ではこの部分はアーチの石材の円形の浮彫のようになっています。

マリアの頭上には聖霊を示す鳩が飛んでいます。 この絵は元々は南へ2.5kmの処にあったモンテカルロ修道院にあったもの。

他には滅多に見られないヤコポ・デル・セッライオの「受胎告知」がありました。

普通マリアはガブリエルより若いか同年齢のように描かれるのですが、 この絵はガブリエルがまだ美少年のようで、マリアは成熟した女性の風格を 漂わせているかのようです。

ヤコポ・デル・セッライオは1441年フィレンツェの馬具職人の息子の生まれ。 フィリッポ・リッピのもとで修業し、ボッティチェッリは二つ年下の相弟子でした。 セッライオはボッティチェッリの影響を強く受けています。

ただ現存する確実に彼のものと言い得る作品は少ないようです。 日本の国立西洋美術館にも1点あります。

右隣のサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ聖堂のファサードは1840年完の 新古典主義様式です。

これはユニークな教会で2階が教会、1階は通路と物置になっています。

足腰の弱い人用にエレベーターがついています。 展望台用ではなく、普通にエレベーターがついている教会は初めてでした。

エレベーターを降りると教会の中。大した絵はありません。 柱廊のアーチの下のリュネットにジョヴァンニ・デッラ・ロッビアの 釉薬をかけたテラコッタがあったくらいです。

美術館の左隣がサン・ロレンツォ教会。

外見は古い倉庫のようですが、中は古い小さな教会になっており、 主祭壇にはジョヴァンニ・デル・ビオンドの三幅祭壇画「聖母戴冠」がありました。

これは予想だにしていなかった拾い物でした。

ジョヴァンニ・デル・ビオンドは1356年から1398年にかけてフィレンツェで 活動していた事が明らかな画家で、ジョットの弟子兼助手だった タッデオ・ガッディの下で学んだようです。

彼はフィレンツェに国際ゴシック様式を持ち込んだ画家として知られています。