美術館訪問記-355 プラド美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:フラ・アンジェリコ作
「受胎告知」

添付2:プラド美術館北側

添付3:プラド美術館内部

添付4:ゴヤ作
「裸のマハ」

添付5:ベラスケス作
「ラス・メニーナス(宮廷の侍女達)」

添付6:ルーベンス作
「愛の園」

添付7:ティツィアーノ作
「ヴィーナスとオルガン奏者」

添付8:ヒエロニムス・ボス作
「快楽の園」

添付9:アントネッロ・ダ・メッシーナ作
「死せるキリストと天使」

添付10:デューラー作
「自画像」

フラ・アンジェリコの「受胎告知」の4大作の内の残った1点は スペイン、マドリードにある「プラド美術館」にあります。

この絵は元々フィレンツェのサンマルコ修道院に移るまでアンジェリコがいた フィレンツェ近郊フィエーゾレのサン・ドメニコ修道院のための祭壇画でした。

それを1611年スペインの初代レルマ公爵が購入し、後にプラドの所有になりました。

この作品は目の覚めるような天井の青色や、左上からの聖霊からの光、 左側にどれよりも大きく細密に描かれた楽園追放場面、明るい奥の小部屋など 他作品とはかなり異なる特徴を持っています。

フラ・アンジェリコの作品の持つ清々しい敬虔さと清明感はそのままですが。

第320回でも触れたように、これまで、どんな観光ガイドや美術本にも 載っているような巨大総合美術館は重複を嫌い、避けて来ました。 プラド美術館についての詳細はそれらを参照して頂くことにして、 ここでは内容を絞って書きましょう。

プラド美術館はスペイン王家が収集して来たコレクションを王立美術館として 1819年一般公開。1868年の革命後国有になり現在名称に変更。

コレクションは19世紀初頭までに限られますが、 スペイン絵画に関しては圧倒的に世界一のコレクションを誇ります。

何せ有名な「裸のマハ」、「着衣のマハ」を始めとするゴヤの油彩画だけでも 129点が展示されているのですから。これは2010年6月訪館時の数字で、 当然ながら展示数は貸し出しや修復などの状況で変わるでしょうが。

ゴヤの油彩画は、あのロンドン、ナショナル・ギャラリーでも5点、 ルーヴル美術館には2点しか所蔵されていないのですからその凄さが判るでしょう。

展示作品数は2007年の増築やコレクションの増加に伴い年々拡大しており、 例えばスペイン最大の画家ベラスケスで言えば、私が1993年初訪館した時は 45点。2004年時は54点。最後に訪館した2010年には87点になっていました。

ディエゴ・ベラスケスは1599年スペイン、セビーリャの生まれ。

画家の父親の後押しで、画家フランシスコ・パチェーコの下で修業。 18歳で独立し、翌年師の娘ファナと結婚。

1623年マドリードに出て、国王フェリペ4世付の画家となり、以後都合5年間の イタリア旅行以外生涯の大半を宮廷画家として首都マドリードで過ごします。

フェリペ4世はベラスケスの才を認め、それまでは職人待遇に過ぎなかった画家に 貴族や王の側近としての地位を与えて厚遇します。

1628年から続いたルーベンスとの交流や、イタリア旅行の見聞は画家の作品形成に 大きく影響し、壮麗さ、写実性、親密さという、本来相容れない3要素を 巧みに融合した独自の境地に達し、「真実の画家」と呼ばれます。

後に印象派の父と言われたマネはベラスケスを「画家の中の画家」と称えています。

そのベラスケスの最高傑作と言われるのが「ラス・メニーナス(宮廷の侍女達)」。 この絵は世界三大名画の一つに数えられてもいます。

一見、宮廷のなにげない日常を切り取ったように見えるこの絵は 複雑な仕掛けを秘めています。

実際に高さ318㎝のこの絵の前に立つと、その場に居合わせているように感じ、 画中に歩み込めるかのような錯覚を覚えます。

ベラスケスは巨大なカンヴァスに向かって制作中。そこに今フェリペ4世の 幼い王女マルガリータが女官や廷臣たち、犬を連れた矮人らを従えて 訪れたところのスナップ写真のようです。

ただ画中の人物の多くが我々を見つめ返し、一瞬静止しているのに気付きます。 彼らの注意を引き付ける重要な焦点が観る者の側にあるからです。

この絵の遠近法の消滅点に当たるところにその答えがあります。 鏡の中に国王夫妻が映っているのです。

つまり画家は国王夫妻の肖像画を制作中と考えられるのです。 しかし実際には個々の肖像画はあっても夫妻揃っての肖像画は存在しません。

では画家は何を描いているのか。

見方を変えれば、王女と国王夫妻を引き合いにした画家の自画像ともとれます。

アトリエという設定場所、画中に誇示された巨大なカンヴァス、壁にある多数の絵、 何よりも画家の威厳のある姿は画中に占める画家の重要性を強調しています。

この絵は画家が生涯を費やした宮廷の真実の姿を示すとともに、熟慮された 複雑な構想を注意深く重ね合わせた、ベラスケス畢生の傑作なのです。

プラド美術館はスペイン絵画だけでなくヨーロッパ各国の名画揃い。

ルーベンス71点、ティツィアーノ33点、ヤン・ブリューゲル父26点、 ダイク21点、ティントレット12点、ヴェロネーゼ10点、プッサン9点、 ラファエロ8点、ヒエロニムス・ボス8点、ヤン・ファン・エイク、メムリンク、 ベッリーニ、マンテーニャ、メッシーナ、アンドレア・デル・サルト、 ボッティチェッリ、デューラー、クラナッハ等枚挙に暇がありません。