戻る

美術館訪問記-35 パラティーナ礼拝堂

(* 長野一隆氏メールより。画像クリックで拡大表示されます。)

添付1:パラティーナ礼拝堂外観

添付2:パラティーナ礼拝堂主祭壇

添付3:パラティーナ礼拝堂内部、左側天井にスタラクタイトあり

添添付4:パラティーナ礼拝堂壁面

添付5:コズマーティ様式の床

イタリア、シチリア島の中心都市パレルモにも 素晴しいモザイク画のある場所があります。 それは現在、シチリア州議会がおかれているノルマン王宮の2階にある、 「パラティーナ礼拝堂」です。

この礼拝堂は華麗。 まるで隅々まで美しく飾られた宝石箱のよう。

ノルマン王のルッジェーロ2世が1132年に着工し、 1140年に聖ペテロに献堂したもので、前の2例より、時代はずっと後になります。

王宮の外観は普通の建物のようにしか見えませんが、 2階に上がると中庭に面して円柱の支える狭い柱廊があります。 この柱廊の側面にもモザイクがありますが、これは19世紀のモザイクで、 それ以前の古いモザイクの代替になったもの。

しかし、中に入るとまさに別世界。 壁面やクーポラは黄金の地のモザイクで埋め尽くされています。 ヴェネツィアのサン・マルコ寺院内部も黄金のモザイクで溢れていますが、 あそこは天井が高すぎるのと、照明が十分でないのとでよく見えない。 しかしここは距離も近く、採光もよく、煌びやかな画面が鮮明に見えます。

最も古いものは内陣のモザイクで、ビザンチンから招聘された職人が作ったという、 ギリシャ語の書き込みがある福音書の場面が描かれ、クーポラには天使、大天使、 預言者、福音史家に囲まれた全能の神キリストが描かれています。

それより年代が後のものは身廊のモザイクで、 こちらはビザンチンの技を受け継いだイタリア人の手になるのでしょうか、 ラテン語の書き込みがあり、旧約聖書の物語を表しています。

床面は幾何学的なコズマーティ様式といわれるモザイクで舗装され、 壁面の底部は大理石製象嵌細工で覆われています。 身廊を覆う木製の見事な天井はアラブ人の作ったもので スタラクタイトと呼ばれる蜂の巣状の加工が施されています。

これらのモザイクとスタラクタイトはこの礼拝堂が 「イスラム美術とビザンチン美術の結晶」と言われる所以です。

ビザンチン・モザイクとは何かを知るにはこの礼拝堂を訪れるだけでも十分なほど、 素晴しいモザイクで溢れた礼拝堂です。



注:

コズマーティ様式:コズマを始祖とするローマの芸術家一家を   コズマーティと呼び、13世紀に4世代に渡り、抽象的で幾何学的な   模様の象眼細工モザイクを種々の材料を使って造り出した。それらを、彼等の作風を真似た物も含めコズマーティ様式という。

美術館訪問記 No.36 はこちら

戻る