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美術館訪問記-34 サンタ・プデンツィアーナ教会

(* 長野一隆氏メールより。画像クリックで拡大表示されます。)

添付1:サンタ・プデンツィアーナ教会

添付2:サンタ・プデンツィアーナ教会モザイク

添付3:1290年頃作の宗教画。
900年も経って、平面的で無表情、無感情、形式的

ローマにも古いモザイク画の残る教会が幾つもあります。 今日はローマに残る現存最古のモザイクのある 「サンタ・プデンツィアーナ教会」を取り上げましょう。

サンタ・プデンツィアーナ教会は聖女プデンツィアーナを祀るに相応しい、 小ぶりで薄桃色の外壁の見るからに可愛らしい造りをしています。 道路から一度中折れ階段で下り、小さな前庭を横切って教会に入る、 極めて珍しい構造。

聖女プデンツィアーナは、プラッセーゼと姉妹で、 伝説によれば迫害されたキリスト教徒に手を差し伸べ、 その後二人とも殉死したということですが、これはあくまでも伝説にすぎず、 二人の聖女は実在しなかったとされています。

中に入ると正面にある後陣の半穹窿型天井に描かれたモザイクが、 目に飛び込んできます。薄暗い教会のなかで、 そこだけは陽の光があたっており、視覚効果をうまく利用しています。

モザイクは390年頃の初期キリスト教時代のもの。 非常に細かいエレメントからできており、モザイクというより絵画のようです。 修復されているのでしょうが、実に鮮明でラヴェンナやパレルモのモザイクに比べ、 より写実的で3次元的、ルネサンス絵画のようにも見えます。

この後、偶像崇拝を避けるために採った宗教画の平面化、非写実化、パターン化が いかに絵画の進歩を遅らせたかが痛感されます。 添付3の900年後の宗教画と比べて見て下さい。

中央の玉座に坐るキリストが左右にいる使徒達に教義を伝授する図柄で、 キリストのみに光輪があり、聖人である使徒や、キリストに一番近い ペテロとパウロにそれぞれ王冠を被せようとしているプデンツィアーナ姉妹には 光輪も、各人を識別するアトリビュートも何もついていません。

キリストの頭上には宝石をちりばめた大きな金色の十字架が置かれ、 その左右には何れも翼を持つ天使,ライオン,牛,鷲が大きく描かれています。 マタイ,マルコ,ルカ,ヨハネの4福音史家を意味するこの図像の きわめて古い事例だそうですが、キリストよりもむしろ大きく描かれています。

教会の権力が強くなる前の、より人間的だった当時の状況を示すようで 興味深いモザイクです。

古い造りのためか、左側廊から狭い通路が本堂の裏を取り巻いて 右壁まで続いています。その右壁に古いフレスコ画がありました。 隠れた礼拝堂だったものでしょうか。

注:

アトリビュート:西洋美術において伝説上・歴史上の人物または神話上の 神や聖人と関連付けられた持ち物。その物の持ち主を特定する役割を果たす。 聖ヒエロニムスのライオン、聖セバスティアヌスの矢など。

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