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美術館訪問記-32 トレド美術館

(* 長野一隆氏メールより。画像クリックで拡大表示されます。)

添付1:トレド美術館正面

添付2:マティス作
「アポロ神タイル壁画」

添付3:トレド美術館内部

添付4:美術館2階にあるクロイスター

添付5:ピエロ・ディ・コジモ作
「幼子キリストへの礼拝」

添付6:ティソ作
「ロンドンの旅行者達」
160cm x 114cm

添付7:ティソ作
「ロンドンの旅行者達」
ミルウォーキー美術館蔵 87cm x 63cm

添付8:ジャック・ルイ・ダヴィッド作
「ホラテウス兄弟の誓い」
ルーヴル美術館蔵

添付9:ガラスパビリオン内部

トレドと言うとスペインのトレドを思い浮かべるのが普通でしょうが、 第4回で触れたアメリカ、オハイオ州にもトレド(Toledo)という町があります。

アメリカ人はトリードとかトレードと発音していましたが、 日本ではトレドと表記するようです。 人口30万人ほどの結構な都会です。 アメリカとカナダの国境にあるエリー湖の東端の先がナイアガラの滝ですが、 トレドは反対側の西端に位置しています。

この町にある「トレド美術館」は日本では知る人は少ないかもしれませんが、 その収集品の質の高さは、 地方都市にある美術館としては世界でもトップクラスです。 1901年の設立で、トレド ガラス工業の父と言われるエドワード・リビィ夫妻の 多大な貢献と市民の協力で現在の姿まで発展してきました。

16本の太いギリシャ風円柱の白い柱が前面にも後面にも並ぶ気品ある2階建ての 建物で、屋根は青銅で葺かれています。 裏側に広い駐車場があり、そちら側から入ると1階正面にマティスの アポロ神タイル壁画があります。 1953年作とあるから、彼の死の前年、 切紙細工で作成したものをタイルに焼き付けたもので、軽やかで明るく、 マティス芸術の一つの到達点とも言えます。

その壁画の両側にある階段で2階に上がると、ギリシャ神殿内部のような 円柱に囲まれた天井の高いロビーに出ます。 正面玄関からは直接このロビーに入ることになります。 左手奥には古代ギリシャ・ローマ彫刻を集めた広い部屋が見えます。 その中間と右手は絵画、彫刻、装飾芸術、宝石等の展示室。

右手奥にはスペインの古いクロイスターをそのまま移植してきています。 このクロイスターのある部屋の広い天井は円曲し、 間接照明で灰色の空のように見える、凝った造り。

展示している絵画作品の質の高さには脱帽するしかありません。 イタリア、フランス、ドイツ、フランドル、イギリス、スペイン、 アメリカの古典からコンテンポラリーまで総浚いしており、 そのどれもがそれらの画家の代表作とも言える傑作ばかり。

一々挙げるとキリがありませんが、ピエロ・ディ・コジモのトンド、 マビューズのサラマンカの三連祭壇画、ホルバインの淑女像、 プリマティッチョの「ユリシーズとペネロープ」、 エル・グレコの「ゲッセマネの祈り」、レンブラントの「毛皮のコートを着た男」、 プッサンの「マースとヴィーナス」、ターナーの風景画、ブグローの天使像、 ルドンの珍しい風景画、セザンヌ、ドガ、ゴーギャン、ゴッホ、ボナール、 ヴュイヤール、モディリアーニ、ピカソ、ホッパー等の名画が特に印象的でした。

ミルウォーキー美術館で観たことのあるティソの「ロンドンの旅行者達」と ルーヴル美術館にある筈のジャック・ルイ・ダヴィッドの「ホラテウス兄弟の誓い」 を見た時は白昼夢を見ているような気がしましたが、後で調べると ティソの作品は約2倍の大きさ、ダヴィッドの方は約1/3で、どちらも 小さい方が大きい方の好評に答えて好事家のために制作されたと思われます。

オルセー美術館にあるマネの「草上の昼食」が約1/2に縮小された形で ロンドンのコートールド美術館にあるのと同じような流れでしょう。

ジェームス・ティソ(1836‐1902)はフランス、ナンテの生まれで、 20歳でパリに出て官立美術学校で学び、ドガやホイッスラー、マネと交友しました。 普仏戦争(1870‐1871年)に参戦し、パリ・コミューンで戦った後、 1871年に渡英し、ロンドンの上流社会の優雅な女性達を描いて成功します。

1874年に第1回印象派展がパリで開かれた時、ドガはティソも誘ったのですが、 彼は参加しませんでした。 1885年、パリに戻っていたティソはサン・シュルピス聖堂で、 キリストの幻影を見たといいます。 以後、ティソは聖書を主題にした絵のみに集中。 パレスチナに三度の旅行までして正確を期し、後半生を宗教画に捧げたのです。

この美術館はアメリカの美術館が、 近代美術館のように限定した目的を掲げたところは別にして、 いずれも大なり小なり展示している、エジプト、古代地中海文明、アフリカ、 中近東、アジア、中南米の芸術作品も勿論展示しています。

特にトレドの繁栄の基盤となったガラスを使った作品用には、 日本の妹島和世と西沢立衛の設計になるガラスパビリオンが 道路を隔てた向かい側に建てられています。2006年完成。

その1年前に妻と初めて訪れた時、美術館内のカフェで白人女性スタッフから 日本語で話しかけられ、少し驚いたことがありました。 福岡で3年間中学の英語の教師をされていたとか。

注:

クロイスター:修道院・教会などの中庭を囲んだ回廊。

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