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美術館訪問記-314 スタンフォード大学カンター・アートセンター

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:スタンフォード大学カンター・アートセンター正面

添付2:カンター・アートセンター入口内部

添付3:フランチェスコ・グアルディ作
「廃墟の風景」

添付4:カンター・アートセンター2階右翼の1室

添付5:カミーユ・コロー作
「アベール・オズモンドの肖像」

添付7:ロダン作品の並ぶ庭園

添付8:唐三彩馬

これまで紹介したアメリカ合衆国の大学付属美術館は東側にあるものばかりで 西側はどうなっているのかとお考えの方もおられるでしょう。

米国は東海岸沿いが発展後、西に向ったので、西側に行くに連れ大学は後発になり、 大学付属美術館を所有する所も少なくなりますが、勿論あります。

まず挙げられるのがカリフォルニア州サンフランシスコ市の南南東50km程にある 「スタンフォード大学カンター・アートセンター」。

スタンフォード大学は、鉄道王であり、カリフォルニア州知事や上院議員を務めた スタンフォードとその妻が、15歳で亡くなった一人息子、リーランド・ジュニアの 死を惜しみ、自分達の子供は大学に行けなかったけれど カリフォルニアの子供達のために大学を作ろうと1891年創設。

約1000万坪、つまり東京ドーム718個分のキャンパスを持つ 全米屈指の広さを誇る大学です。

リーランド・ジュニアは幼少のころから美術、歴史、考古学などに非常に深い 関心があり、豊かな親の財産を活用して、広範な蒐集をしていました。

夫妻はそれらを核に美術館を1894年に開館。その後2回の大地震で大きな被害を 受けましたが、耐震構造の新しい美術館として1999年に再オープン。 現在、24のギャラリーで約2000点の美術品が常時展示されています。

椰子に囲まれた2階建ての堅牢で古典的な造りの建物は、 美術館としての風格と威厳があります。

入口直ぐ右に馬の化石のようなデボラ・バターフィールドの彫刻がありました。

デボラはアメリカ生まれの女性彫刻家で、芸術家の夫と一緒に牧場を経営しており、 自分で見つけた木切れや金属片を繋ぎ合わせて作る馬のオブジェで知られ、 米国の美術館ではよくみかけるポピュラーな現代作家です。

入口は広い長方形の吹き抜けになっており、1階を見おろす2階通路に ロダンやブールデルの小さめの彫刻が幾つか置いてあります。

2階右翼に171 x 183cmという、持ち運びやすいように小品や中品の多い グアルディにしては珍しく大きな風景画「廃墟の風景」がありました。

フランチェスコ・グアルディ(1712-1793)はヴェネツィアの画家一家の生まれで、 兄のジョヴァンニ・アントニオも名の知れた画家になり、 妹のマリア・チェチーリアはティエポロと結婚しています。

初期は共同作業をしていた兄の影響で、宗教画や歴史画を描いていますが、 1760年に兄が死に、工房の宰領者になると作風が一変。即興的筆触による 幻想的で詩情に満ちた風景画やヴェドゥータを描くようになります。

ヴェドゥータとは当時のグランド・ツワ―という観光旅行ブームの影響もあり、 18世紀のヴェネツィアで大いに流行した都市景観図の事で、都市景観を忠実に 描くだけでなく、空想的な風景を付け加えたり、廃墟の持つ、ロマンティックで 懐旧的な雰囲気を表したりした作品も数多く制作されました。

グアルディのそれまでにない詩情感の漂う印象的で近代的な作風は、 外国人旅行者達に高い評価を受け、多くの作品が外国に持ち帰られ、 現在でも世界中の美術館で彼の作品を観る事ができます。

彼の死の4年後にヴェネツィア共和国はナポレオンに征服され、 終りを告げるのですが、グアルディはベッリーニ、ティツィアーノ、ヴェロネーゼ、 ティントレット、ティエポロ等により連綿と引き継がれて来たヴェネツィア絵画に 最後の芸術的光芒を与えた画家となったのです

他にもアーチンボルトに帰属されるいかにも彼らしい植物を組み合わせた人物画、 プーリオの聖母子・洗礼者ヨハネと天使、ドルチの大きな「栄光のマドンナ」、 フュースリーの「アダムとイヴ」、ゲインズバラの肖像画、など印象に残る 作品があり、ギリシャの壺絵、中南米の土偶のような彫刻も並んでいました。

2階の左翼は近代絵画で、珍しいコローの親しい友人の肖像画、エンネルの女性像、 マネの軽快なタッチの肖像画、モローのプロメテウスを描いた完成作品、 ピカソの青の時代の明るい感じの女性像、等があります。

1階左翼には2室ぶち抜きでロダンの彫刻が並んでいます。計144点。 この他にも外の庭園に20作、館内のあちこちに15点。合計180点足らず。 パリのロダン美術館に次ぐ世界第二位の所有量というのも頷けます。

1階右翼はアジア美術。入口にある唐三彩馬が釉薬の輝きと味が素晴らしい。 多数の仏像に混じり木彫の地蔵や完全に保存されてきた鎧兜もあります。

実に多彩な内容で、流石名門校の誇る美術館だけのことはあります。

(添付6:ピカソ作「帽子を被った高級娼婦」 は著作権上の理由により割愛しました。
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