美術館訪問記-306 クライスト・チャーチ美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:クライスト・チャーチ美術館

添付2:ボッティチェッリ作
「5人の女預言者達」

添付3:フィリッピーノ・リッピ作
「5人の女預言者達」

添付4:フィリッピーノ・リッピ作
「傷ついたケンタウロス」

添付5:クライスト・チャーチ美術館大広間

添付6:アンニーバレ・カラッチ作
「エジプトへの逃避」
ローマ、ドーリア・パンフィーリ美術館蔵

添付7:アンニーバレ・カラッチ作
「肉屋の店先き」

添付8:レオナルド・ダ・ヴィンチ作
「醜い頭部」

クライスト・チャーチ・カレッジは世界で唯一、大聖堂を学内に持つだけではなく カレッジ固有の美術館も所有しています。

それが「クライスト・チャーチ美術館」。

歴代のクライスト・チャーチ・カレッジの卒業生が寄贈したコレクションは カレッジ内の諸施設に展示されていたのですが、質量ともに管理が難しくなり、 専門の美術館を建設し、エリザベス女王の手で1968年開館されました。

入口が、それと知っていなければ判り難い裏通りにあるためか、 長蛇の待ち行列ができていた大聖堂やグレート・ホールに比べると、 閑散として人影はまばらです。

4部屋のこぢんまりとした美術館ですが、最初の部屋にボッティチェッリと 彼の弟子フィリッピーノ・リッピがそれぞれ別々に同一の主題で描いた 「5人の女預言者達」がありました。

フィリッピーノ・リッピはもう1作「傷ついたケンタウロス」もあります。 いずれの主題も彼等の作品としては他で観た記憶がなくユニークです。

次の大広間にはイタリアのオールド・マスターが並んでいます。

ベルナルディーノ・ダッディ、サーノ・ディ・ピエトロ、バッサーノ、 ヤコポ・デル・セッライオ、ロレンツォ・ロット、ポントルモ、ヴェロネーゼ、 ティントレット、サルヴァトール・ローザ、アンニーバレ・カラッチなど。

イギリスの私立美術館としてはトップクラスの品揃えです。

アンニーバレ・カラッチ(1560-1609)はイタリア北部、ボローニャの生まれで、 兄のアゴスティーノ・カラッチ、従兄のルドヴィーコ・カラッチも画家と言う 画家一家の中で育ちました。

3人は1582年、ボローニャにアカデミア・デリ・インカミナーティ (新時代を切り開く美術学校)という画学校を設立し、子弟の育成に努め、 グイド・レーニやドメニキーノ、グエルチーノなどバロック古典主義における 重要な画家たちを育てています。

3人の中でも傑出した技量を備えていたアンニーバレは1595年、 カラヴァッジョに数年遅れてローマに出、名声を確立します。

彼は宗教画は勿論、カラヴァッジョが描かなかった神話画が最も得意でしたし、 最晩年に描いた風景画は、後にプッサンやクロード・ロランによって完成される 理想的風景画を既に実現させていました。

アンニーバレはイタリアだけではなく、ヨーロッパでも名が知られており、 作品が各国の美術館に所蔵されていますが、 この美術館には彼の風俗画の代表作とも言える「肉屋の店先き」がありました。

20歳代前期の作品で、師としてついたバッサロッティの庶民風俗描写を受け継いだ ものですが、彼が風俗画を描くのは20歳代に限られます。

この絵は190 x 271cmという大画面なのですが、1580年代にイタリアで このような日常風俗をそのようなサイズで描くというのは革新的なことでした。 他の画家達は宗教的なものか歴史的なものに主題を求めていた時代です。

クールベが「オルナンの埋葬」という庶民の日常生活を大画面に描いて、 批評家達から手厳しい批判を受けるはるか270年も前の事なのですから。

イタリア人以外の画家では、フーゴー・ファン・デル・グースやヴァン・ダイク、 フランス・ハルス、ジョシュア・レイノルズなどの作品もありました。

1室はデッサン専用の部屋になっており、レオナルド・ダ・ヴィンチやデューラー、 ラファエロ、ティツィアーノ、ホルバイン、ルーベンス等の素描もあります。